竜退治

□狙撃手と灰色姫(シンデレラ)
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ハア… ハア…

荒い呼吸がどうしても止まってくれない。そんなことは在り得ないって分かってはいるけど、このままもう、心臓が止まってしまいそうだ……



「クッ… ハァッ…! ゴホッ… ゴホゴホゴホ…!


喉の奥がヒューヒューと嫌な音を立て、ボクはまた激しくむせこんだ

いくら喉を痛めつけ咳をしても、痰がどうしようもなくからんでくる。狭まった気管ではもうどうにも呼吸がままならない



「っつ… チックショウ…!!


おもわず、そんな悪態をつく

しばらくマシになってきてたから、完全に油断してた

このボクとしたコトが。まさか、部屋に常備してるはずの薬を完全に切らしてるなんて…!!


やっぱり無理矢理に笑顔を作ってまで他人の世話を焼くなんて、ガラでもないコトするモンじゃない……



なんだってボクは… いつもいつもこんな……






「おい…! 大丈夫かよ…!?」


不意に声が聞こえて、目の前の鏡を見る


そこには、その年齢にしては物凄く大人びた、それでも… 見た目はまだほんの小さな一人の少年が映っていた



水道設備がまだ十分整っているとは言い難いため、都庁内のお手洗いはすべて男女共用

もちろん、ムラクモ居住区の階も例外ではない


「なんだ… まだいたの? ムトクン。…悪いけど、今見てのとおりでさ。邪魔だから出てってくれないかな…?」


さっきシンデレラちゃんに噛まれた鼻を、触れた手を、必死に水で洗い流しながら

ボクは唇の端を引きつらせ、無理矢理に笑みを貼り付ける

だけど、そんなその場凌ぎの作り笑いでごまかすには、ボクは彼等と長く一緒にいすぎていた


「バーカ! なんとなく、こうなるんじゃないかと思って戻って来てみれば… お前さ、こんな状況でほっとけるわけないだろ!」

うるさい……!! 平気だって言ってるでしょう!? ボクのことなんかほっといてよ!!」



ああ… 勢いって、怖い

平気だなんて一言も言ってなかったし、こんな青い顔してよくもまあそんなコトが言えたモノだ。と、自分でも思う


言ってるそばから目眩に襲われて、ボクの身体が大きく揺れた


「ああっ…! おい!!」


ムトクンの小さな手が、ボクに触れようと、支えようと動く


「……ッ…!!!」


バシッっと酷い音を立てて


ボクは、その手を反射的に拒絶した



「…………ゴメン……。…カハッ……!!

「ああもういい…! 今のは忘れてたオレが悪かった! キリノのとこに行こう… 歩けるか?」



………!!



「ヤ… ダ…… それだけは、勘弁願いたいんだけど……?」

「なんでだよ……? 言っておくけどな。班員の体調管理だってオレの仕事の内だから、同情とかじゃない。仕事で言ってるんだぞ」


「……分かってるよ。…解ってる」
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