竜退治

□緑の歌姫と野郎共の喧嘩風景
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「だけど… 元気そうでよかったよ。独りでふさぎ込んでるんじゃないかと思って来てみたんだけど、もう間に合ってたかな?」


特徴的なたれ目をそっと細める、その表情は優しげだ

ちょっと怖そう… いや、はっきり言って、完全にカタギじゃない見た目な人だと思っていたけれど、どうやら、すごくいい人みたいで安心する


「ま、用はそれだけじゃねえんだ。いや、用ってほどのことでもないんだけど… 眠れなかったっていうならちょうどいいや。おあつらえ向きのBGMがある」


そう言って、部屋の大きな窓を開け放つクロヌマ

おいで、灰色子猫ちゃん? と、彼は私を手招きした

―でも、『子猫ちゃん』って……

ツッコむべきかどうか一瞬迷ったけれど、私は、素直に窓辺へ向う


そこで、私の耳へ、圧倒的なほどのインパクトを持つ『何か』が飛び込んできた

機械的で、それでいて美しい、洗練された旋律

なんて綺麗な… 音楽……!!


「セカイの歌姫の新曲だぜ? 救助のお礼だって言うんで、オレとクオンは一足早くに聴かせてもらってたんだが… すごく、よかった。オレにでもわかるぐらいにさ」


……本当に、すごく、いい

おもわず私は、彼に問いかけていた


「歌の… この曲のタイトルは?」

『SeventH‐HeaveN』


綺麗な発音で、すぐ隣から答えが返ってくる

吸ってもいいかい? と、彼が煙草の箱を取り出し訊ねてきたので、うなずいた

とっぷりと暮れた冬の寒空に、紫煙がゆらゆらと昇っていく


セブンス・ヘブン

七つ目の、楽園。かあ……

今のこのセカイに、楽園なんて夢みたいなものは、まだ残されているだろうか……?

そんなことを思いながら、私は歌に耳を傾ける


―引き裂かれた、大地の痕(こえ)

啼り響いた、瓦礫の戦慄に

還らない日常に向かって 何を叫ぶのか?

目覚めた現実は 刻(とき) を朱く朱く染めて―



シンプルな旋律(ビジュアル) に、複雑な歌詞(ココロ) が絡んでいくのが、とても心地よい

最初はおとなしかったメロディーが、徐々に力強いものへと変わっていく
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