竜退治
□緑の歌姫と野郎共の喧嘩風景
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何処までも届きそうな、天高く澄み切ったこの声は……
「もしかして… 初音ミク…!? あの、超有名な『緑髪の女神様』の!?」
おどろいてまくし立てる私に、クロヌマが答えた
「そう。正解! …どうだい? 少しは気が落ち着くかな、と思ってね。君に聴かせたかったんだ。本当ならクオンの役回りだったんだろうが、ちょっと無理そうだったからな」
ちょっと… 無理そう…?
不審そうな表情をした私に、クロヌマは、なんでもないことのように言う
「ああ。これ、東京地区のドラゴン討伐完遂記念のライブなんだけどさ、企画したのアイツなんだよ。廃墟になっちまった東京中から無事に残った楽器かき集めてきてな。今、ベース弾いてんだぜ。この部屋からならギリギリ見えるかもな、特に、君の視力なら」
そう言われて、おもわず、窓から身を乗り出すようにして下を見た
「…っと、あんまりはしゃぐと危ねえぞ?」
そう言って、彼はそっと私の腕をつかんだ
久しぶりに感じる、人間の体温
彼のにおい… 煙草のにおいが鼻につく
「こんな綺麗な歌(モン) 持ってる娘(こ) を、助けられて良かった… クオンに至っては、『ボクは彼女の歌を生で聴くためだけに今日まで生き残ってきたんだ。そうだ、そうだよ。きっとそうに違いない!』とか、半ば本気でぶつぶつ言い出す始末だったしな。…オレが『ムラクモやってて良かった』って思えた瞬間って、これぐらいのもんだぜ……」
「…………………」
しみじみとそうつぶやく彼に、私は、少しのあいだ何も言うことができなかった
私は何も知らない
けれど、彼と『ムラクモ』という存在との間には、何か深い事情があるのだろう
それだけはなんとなく察せられる… そんな雰囲気が伝わってきたから
それでも… と、私は口を開く
「それでも、助けた命は決して無駄にはならない。そうですよね…? だったら、だったら……!」
それ以上は、上手く言葉に出来ない
頭の中に浮かんでいたはずだった自分の想いを、カンタンに見失ってしまう
それはきっと、私自身も、迷っているから……
自分でもハッキリとは解れていないことをカタチにしようとするのって、こんなにも難しいんだ
「そう… だったかな……」
歯切れの悪い口調で言って、彼は困ったように微笑む