次回作下書き

□四度目の人生下書き
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『祝福の名』(1/2)




――地上本部・訓練スペース――


ミッドチルダ地上本部の訓練スペース。幾多の魔導師達を育ててきたこの場所に、今は10に満たぬ少女が一人両手にナイフの形をしたデバイスを構えて佇んでいた。

周囲に転がる訓練スフィアの残骸は本来高位魔導師の訓練に使われるものであり、幼い少女が行う様なレベルの物ではない筈だった。

『開闢の世代』……時空管理局が設立してから半世紀と少し、まるで時を待っていたかのように三人の天才魔導師が管理局に現れた。

高町なのは、フェイト・テスタロッサ、八神はやて……その三人を中心とし、まるで押し寄せる高波の様にニアS、オーバーSクラスの魔導師が大量に現れ、ミッドチルダの歴史は新たな時代を迎えた。そしてそれに呼応するかのように今管理局は若き才能の発掘に力を入れ始めていた。

政府のとある高官を両親に持つ少女……生まれ落ちた日にちなんで祝福の名を冠した少女は、正しく天才と呼ぶに相応しい存在だった。

持って生まれた才能も、裕福な家庭も、両親からの深い愛情と支援も、ありとあらゆるものが少女には与えられた。

……しかし……神は彼女の生を祝福はしなかった。

生まれ落ちたその瞬間から少女は……誰もが当り前に持つ未来を奪われていた。






















訓練プログラムを終え、部屋から外に出ると私の元に父さんと母さんが手を叩きながら近づいてきました。

「素晴らしかったよノエル。新記録だ」

「……つまらないプログラムでした。次があるならもう少し難易度の高いものをお願いします」

どこかの管理外世界においての記念日にあやかって付けられた私の名前を呼びながら、父さんは笑顔で話しかけてきましたが、私は特に感情を込める事無く言葉を返す。

私は周りの人達に天才と呼ばれており、私自身もその自負はあります。今回だって、本来ならAランク魔導師が行う訓練も簡単にクリアする事が出来ました。

だけど、本当につまらない……この世界において魔導師の言うのは一種のスターであり、習い事の様に魔法を覚える人も多い。高位の魔導師はそれだけで社会的地位を約束され、将来の職に困る事も無い。だけどそれは私にとって何の意味ももたない……高みを目指す意味も無い、競い合う相手も居ない、ただ惰性で続けているだけ。

「……帰宅します」

「あ、ああ、じゃあ車の手配を……」

「必要ありません。それでは……」

過保護な両親の言葉を一蹴し、私は周囲の局員に軽く頭を下げてから地上本部を後にする。























――ミッドチルダ西部・公園――


緑の多い公園を何の感情も無く歩いていると、ふと目の前に少し年上に見える男の子の集団が見えました。

さして何の興味もわかなかったので無視して通り過ぎようとすると、集団の一人一回り体格の大きいリーダー格の男の子が私に声をかけてくる。

「おい、俺様に挨拶も無く通り過ぎようとは、いい度胸だな」

「……」

知性の欠片も感じられない言葉に呆れつつ、無言で男の子を睨みつける様に振り返ると……私のそんな態度が気に食わなかったのか、男の子はこちらに詰め寄ってくる。

「でめぇ、なんだその目は!」

「……小汚い豚の分際で、私に話しかけないでくれますか? 不愉快です」

「んなっ!?」

「埃を払うのも面倒ですので、さっさと消えてください……痛い目を見たくなければ」

続けた言葉を聞いて明らかに怒りをあらわにする豚……確かにその体格なら、同世代では高い地位を保っていられるのでしょう。しかしそれはあくまで一般人の中での話です。

魔導師である私に対してその理屈は通用しません。私がその気になればこの三人の心に消えないトラウマを刻み込むなんて、ものの数十秒で可能です。

警告のつもりで告げた言葉でしたが、豚には理解できなかった様子で欠伸の出そうな速度で拳を振り上げるのが見えました。

振り下ろされる拳を魔力で軽く身体強化して片手で受け止め、そのまま返す手で豚の腹を殴りつける。

「ふぎゃっ!?」

耳障りな悲鳴と共に豚は尻餅をつき、怯えた様な目でこちらを見ていましたが……警告を無視した以上容赦はしません。

早々と逃げ去るもう二人は無視して、肥え太った腹を踏みつけながら拳を握り、豚の顔面に拳を叩きこむ。

しかし、魔法も使えない一般人には反応する事も出来ないであろう私の拳は……突如横から伸びてきた手に掴まれ、豚の眼前で静止しました。

「……子供の喧嘩に魔法を使うのは感心しないね」

「!?」

隣から聞こえてきた声と魔力を込めた拳が止められたという事実に驚きながら振り返ると、そこには呆れた表情を浮かべる銀髪の男の子が立っていました。

見た所私と同じ位の年齢ですが……止めた? 本気ではないと言え、身体強化された私の拳を?

「あ、お、お前は!?」

どうやら豚はこの男の子を知っている様子で、驚いた様な表情を浮かべます。それに対して銀髪の男の子は大きくため息を吐いてから、驚愕の表情を浮かべる私を一瞥して豚に話しかけます。

「いきなり絡んだ君も悪い。これに懲りたら、もう少し喧嘩腰の態度を改めた方が良いよ……ほら、いきな」

男の子がそう告げると、豚は慌てた様子でその場から走り去り、もうその豚に対しての興味は完全に消えていた私はそれを見送る。

男の子は走り去っていく豚を眺め、もう一度溜息を吐いて……私を無視して歩き、近くにあった露店らしき場所に座る。

同世代の男の子に拳を止められたという事実に固まっていましたが、完全に無視されたという事実に憤りを覚え、私は男の子のやっている露店の前まで歩いていき口を開く。

「余計な真似を……何故邪魔をしたのですか?」

「邪魔って……一般人を身体強化した拳なんかで殴ったら怪我するでしょ」

「それの何が悪いのですか? 分不相応な態度を取ったのはあの豚で、私が咎められるいわれはありません」

「……」

あえて挑発する様な口調で言葉を返してみました。さて、どんな反応をするでしょうか?

ムキになって反論してくるか、あるいはキザったらしく無視するか……どちらにせよ私の邪魔をしたのですからこのまま冷静に居させるつもりなありません。

初めて同世代に上から諭す様な言葉を吐かれた苛立ちを胸に秘めながら男の子の言葉をつ。

そして男の子が私の言葉を聞いて向けてきた目は……私の予想していたものではありませんでした。

「……周りに注意してくれる人はいなかったのか? ……可哀想に」

「なっ!?」

まるで聞き分けのない子供を見る様な、呆れと同情の混じった目。

何なんですかその目は、その言葉は! 偉そうに……貴方だって私と同い年ぐらいでしょう……

こんな屈辱は初めてです。だって私は今まで同世代はおろか、2歳3歳年上の相手にだって負けた事は無い。

周りに居る大人だって私の事を馬鹿にするような人は一人も居無かった。皆私を天才だと呼んで、低く見たりしなかった。

なのに、なのに……この子の目は……

頭が煮えたぎっていく様な感覚を覚えますが、ここで怒りのままに反論すれば相手の思うつぼ、そうなればこの男の子はそれ見た事かと私を子供扱いするでしょう。

一層強くなった苛立ちを噛み殺しながら、私は何か目の前の男の子に口論で反撃できる手が無いか視線を動す。

すると男の子の露店に「デバイスのメンテナンス承ります」と書かれた看板があるのを見つける。

……これだ。私のデバイスは、局の技術者に作ってもらった特注品。こんな露店をしていては見る事のない様な高級品を目にすれば、この子の私を見る目だって変わる筈です。

それに、メンテナンスを頼んでみるのも面白いかもしれませんね。どうせこんな所で小さな露店をしてる様では、大した腕では無いのでしょう?

もし高い技術があるなら他に働き手はあるでしょうし……そこをけなしてやれば……

口元にかすかに笑みを浮かべながら、私はデバイスを展開して男の子に差し出します。

「まぁ、初対面の相手にこれ以上何を言っても仕方が無いですし、先程の事は水に流しましょう。……デバイスのメンテナンスをやってる様ですし、一つ私のデバイスもメンテナンスしていただけませんか?」

出来るだけ大人っぽく余裕の表情で告げる私の言葉を聞き、男の子は私のデバイスを一瞥した後……首を横に振った。

「断る」

「なっ、え? ちょ、ちょっと待ってください……お金ならちゃんと」

男の子が告げた声は、先程までとは明らかに違っており……そこには明確な怒気が含まれていました。

急変したその様子に戸惑いながら私が代金はちゃんと支払う事を告げると、男の子は強い怒りのこもった目で私を睨みつける様にしながら口を開く。

「……そのデバイス。長い事ロクに清掃もしてないだろ……一緒に戦う相棒も大切にできない様な魔導師のデバイスをメンテナンスする気は無いよ」

「……相棒? こんなものはしょせんただの道具でしょう? 壊れたら新しいのを使えば良いだけです」

何故こんなに怒っているのか理由は分かりませんが、ある意味これは私の望み通りの展開とも言えます。

だからこそ私は再び挑発する様な言葉……正直今までこれ以外のデバイスを使った事は無いですが、あたかもデバイスを使い捨てているかのように振舞ってみます。

「……よっぽど今まで甘やかされて育って来たんだろうね。君は、魔導師として最低だ」

「……随分偉そうな物言いですね? そこまで言うのでしたら、見せてもらいましょう。私の考えを否定したいのであれば、力で示して見せれば良いのでは?」

この期に及んでまだ私を子ども扱いする男の子に対し、私は更に挑発する様な言葉を重ねる。

そう、これこそが私が狙っていた展開……恐らくこの子も多少は魔法を使えるのでしょう。それで自分が私より優れているとでも思っているからこんな態度路とれるんです。だから思い知らせてあげましょう、私との力の差を……そうすればもうこんな態度ではいられないでしょう。

「……良いだろう。付いてこい」

「望む所です」

露店の商品をしまい強い怒りのこもった口調で告げて立ち上がる男の子に対し、私はこれからその偉そうな態度が変わる事を想像して笑みを浮かべながら後を追う。
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