魔法少女リリカルなのはStrikerS X〜翡翠の太陽〜

□翡翠の温もり
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第四話「求められぬ救い」(2/2)








 何着かの服を買い終え、今度は下着を買う為に移動を開始します。

 私としてはこちらもコウタ様に決めていただいて構わなかったのですが、何やら倫理的な問題がどうとかで、コウタ様は店の中に足を踏み入れる事が出来ないそうです。

 その為私はコウタ様からお金を受け取り、一人で店の中に向かう事となりました……まぁ、下着であるならばそれほど種類も無いでしょうし、コウタ様をお待たせする訳にもいかないので直ぐに買ってしまいましょう。

 そう思ってお店の中に足を踏み入れましたが……私の考えは、甘かったようです。

「……」

 なんで、こんなに種類があるのでしょうか? 色も先程の衣服のお店以上に種類がある気がします。

 誰に見せると言う訳でもない筈なのに、こんな多種多様にする意味があるのでしょうか? まったくもって理解が出来ません。

 というかいくつか明らかに欠陥品の様な……生地が小さすぎるものや、穴が開いているものまであります。

 よほど貧困な国で制作されたと言う事でしょうか……ならば色の種類を増やす前に、もっとやるべき事があると思うのですが……

 しかし弱りました。コウタ様はこの店には入る事が出来ないと仰っておられましたし、そうなると先程の様に助言を頂く事も出来ません。

 そうなるとやはり私が全て決めなければならないと言う事になりますが、どうすればいいのか見当もつきません。

 先程の服はコウタ様に色々と質問され、私もいくつかの意見を出しましたが、最終的にはコウタ様が見て決めて下さりました。

 今回も同じ様な形式であれば……うん? 同じ様な……コウタ様に見ていただいて、決めてもらう?

 何故でしょう、不可解です。今体温が微かに上昇したように感じましたし、何故かその行動を実行するのは躊躇ってしまいます。

 まぁ、そもそもコウタ様はこのお店には入れないのですから見ていただくと言う事は出来ないのですが……一旦その部分は忘れて、先程のコウタ様の質問を思い出して選んでみましょう。

 確か初めは色から……















 苦戦した下着の購入も済み、その後も色々なお店を回って生活に必要だと言うものを購入していただきました。

 本当にこの世界は物に種類があり過ぎて、買い物を行うのも一苦労です。

 食器ですら山の様に種類があるのを見た時は、コウタ様が私などに意見を求める気持ちも分かる気がしました。

 そして現在私はコウタ様と向かい合う様な形でテーブルに座り一休みをしています。

 喫茶店という軽食中心の飲食店らしく、コウタ様はメニューを見ながら私に話しかけてきます。

「イクスは甘い物とか好き?」

「甘い物……ですか? 申し訳ございません。好き嫌い以前に殆ど口にした事がないもので……」

 本当に不甲斐ない話です。結局私はこの買い物で所有者であるコウタ様に頼りっきりになってしまいました。

 現在も意見を求められていると言うのに、ロクな答えを返す事も出来ず……情けない限りです。

 でも、コウタ様はそんな私に苦言の一つも告げる事はありませんでした。今も穏やかに微笑みながら私の方にメニューを向け、話しかけてくれます。

「じゃあ、この中から食べてみたいのを選んでよ。どんなものか分からなかったら説明するからさ」

「あ、はい」

 今日一日、一緒に過ごしてみて確信した事があります。

 コウタ様は……とてもお優しい方なんだと思います。

 少なくとも私が今まで接した事のない人……道具である筈の私を、一人の人間として当り前の様に扱って下さる方。

 だからこそ私の心は多くの戸惑いに揺れてしまうのでしょう。この方と一緒にいると、まるで自分が『人間に戻れた』様な、そんな錯覚を抱いてしまうから……


 ……この人は、血にまみれた兵器である私などと一緒にいてはいけない人だと思います。


 いえ、それは単なるいい訳なのかもしれません。


 私はきっと、この人に知られたくないのだと思います。


 私のこの手が、どれほどの血に汚れてしまっているか、どれだけの命を散らせてきたか……


 優しい笑顔を向けてくれるこの人が、それを知ればどうなってしまうのか……


 それを考えるのが、どうしようもなく恐ろしい。


 だから、お願いしますコウタ様……


 もう、これ以上私に優しくしないで下さい……これ以上私に、その笑顔を向けないで下さい。


 こんな生活が続けば、私はいつか愚かにもそれを求めてしまうから……


 救われる筈のない、許される筈のない身でありながら……貴方にそれを求めてしまいそうになるから……


 だから、お願いします……どうか私を、心無い道具のままで居させてください……



















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という訳で、翡翠の太陽第四話でした。

イクスは完全に浦島太郎状態です。

イクスは心の奥底では誰かに救われたい。助けて欲しいと願っていますが……自分がそれに値しない存在であるとの認識から、道具であろうとしています。

太陽の光を求めながらも、自分がそれに照らされる資格はないと……重ねてきてしまった罪の意識、優しい心を持つが故の苦悩……そんな心こそが、イクスを縛る最大の鎖なのかもしれません。

果してコウタは、そんなイクスを鎖から解き放ってあげる事は出来るのでしょうか……
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