魔法少女リリカルなのはStrikerS〜孤独の歌〜
□共通ルート四十一話〜五十話
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第四十一話「過去と出会いと現在A?」(2/2)
——数時間後——
ひ、広すぎる……全然終わる気がしない。
まぁ、俺以外にも清掃の職員もいるし、焦ってやる事はないんだけど。
罪に対する罰なんだし、しっかり真面目にやらないと……
地上本部のあまりの広さに呆れつつ、掃除を続ける俺。
そこに、オーリス三佐が歩いてきた。
「……やってるわね」
「あ、お疲れ様です。オーリス三佐」
「ええ……任務中以外は、三佐はいらないわ、オーリスって呼んで頂戴。その代り私もコウタって呼ぶわね」
そう言って微笑むオーリスさん。
「分かりました。オーリスさん」
今は奉公中であり、任務というわけでもないので言われたとおりに呼ぶ。
「うん……ところで、一つ聞きたいんだけど……」
……俺に?なんだろう?
「はい……なんでしょうか?」
「貴方の、その髪……手入れとかちゃんとしてる?」
え?髪?
「あ、いえ……特に何も」
「駄目よそれじゃ……見たところ銀髪でしょ?銀髪はこまめに手入れしないと、すぐに灰色っぽくなったり白色っぽくなったりするのよ。それに長さも少し長すぎるわね」
オーリスさんは少し呆れた様子で、俺の髪を見ながら話す。
確かにそういった分野にはあまり興味がなくて、長く伸びた髪を後ろで一つに纏めているだけで、手入れなんかは何もしてなかった。
「はぁ……その、そういった分野に疎くて……」
「なるほどね……今日、奉公活動が終わった後時間あるかしら?」
「あ、はい。大丈夫ですけど?」
オーリスさんの言葉に、首をかしげながら答える俺。
訓練校と地上本部は離れているので、俺はこの2週間は地上本部の仮眠室に泊まり込みだし、時間は十分にあった。
「じゃあ、奉公活動が終わった後。連絡を頂戴」
「……分かりました」
オーリスさんがほほ笑みながら端末を取り出したので、俺も端末を出して情報を交換する。
「それじゃあ、掃除頑張ってね」
「はい!」
そう言ってオーリスさんは去っていき、俺は端末のデータを確認する。
……あれ、この通信コードって……プライベートコードなんじゃ?
——数時間後——
——ミッドチルダ・首都クラナガン——
夕方になり、一日目の奉公活動を終えた俺は、オーリスさんに連絡をした後合流して、連れられるままにクラナガンへ来ていた。
……どこへ行くんだろう?
「オーリスさん、聞いてもいいですか?」
「ええ、なにかしら?」
「どこへ行くんでしょうか?」
前を歩くオーリスさんに聞いてみる。
「美容室よ」
「……え?」
……美容室?美容室ってあれだよな、髪を切りに行く美容室だよな?
「貴方の髪を切ってもらおうと思ってね……あ、それとももしかすると、その髪の長さに思い入れがあったりする?」
「い、いえ別に思い入れとかはないです」
心配そうに聞くオーリスさんに慌ててフォローを入れる。
「だったら、思い切ってバッサリとセミロングぐらいに纏めたほうが、きっと似合うわよ」
「は、はぁ……」
「コウタはあまり気にしていないようだけど、見た目っていうのはとても大事よ」
そう言ってオーリスさんは諭すように話し始める。
「どんなに内面がよくても、人の内面なんてすぐには見えてこないでしょ?見た目次第では正当に受け取ってもらえない事もあるのよ。見た目っていうのは相手に一番ストレートに伝わる情報だから、ちゃんと気を使っておいた方がいいの」
「そ、そういうものなんですか?」
「そういうものよ」
よ、よくは分からないけど……たぶんそうなんだろう。
そのままオーリスさんに連れられて、美容室の前まで来る。
……え?これ美容室?……高級なレストランとかじゃなくて?
目の前には、まず一般人が行くような感じじゃない高級そうな建物があった。
茫然と美容室を見つめる俺に、オーリスさんが微笑みながら話しかけてくる。
「心配しなくていいわよ。強引に連れてきたわけだし、お金はちゃんと私が払うから」
「え?い、いえ……しかし、申し訳ないですよ……」
「ふふ、若い内から遠慮なんて覚えてもロクな事にならないわよ。気にしないで」
「……はぁ、ありがとうございます」
……うん、今自覚したけど……俺って押しの強い人に弱いな……
その後、美容室で髪を切ってもらい、さらには、シャンプーやトリートメントまで買ってもらって……髪の手入れの仕方なんかも、全てオーリスさんに教わった。
「……何から何まで、ホントすみません」
すっかり日が暮れたクラナガンのストリートを、オーリスさんと並んで歩く。
「気にしないで、出来れば服とかも買ってあげたかったんだけど……今日はもう遅いし、又次の機会ね」
「い、いえ!そんなことまでお世話になるわけには……」
「だ〜め。どうせ、さっきまでの感じだとその辺にもあまり気を使ってないんでしょ?それじゃあせっかく綺麗にした髪が勿体ないわよ」
「……ぅぐ」
た、確かに服装とかもあまり気を使った事はなかった……俺もうこの人に頭上がらないかも……
「あ、そういえばコウタ。夕食まだよね?」
「はい、まだですが……」
「じゃあ、一緒に食べましょ……ちょっと待ってね」
そう言ってオーリスさんはどこかに連絡をし始める。
どこへ連絡しているんだろう?……というか今までの感じだと絶対凄い店だよな?……テーブルマナーとか自信ないかも……
少しして連絡を終えたオーリスさんと一緒に、夕食を食べる店まで移動する。
……何このお店?お城?
もう今日何度目か分からないが、俺は茫然と目の前の店を見つめる。
「もう、中で待ってるみたいだから急ぎましょ」
……誰が?
店の人に案内され、大きな和室のような部屋に入ると思わぬ人物が居た。
「おお、来たか!待ってたぞ」
「れれれ、レジアス中将閣下!?……お、お疲れ様です!!」
片手を上げ挨拶をしてくるレジアス中将に、大慌てで敬礼をして挨拶する。
なんで、レジアス中将がここに?
「ははは、そう固くならんでいい。今は仕事中でもないんだし、レジアスで構わんよ」
「は、はい……レジアスさん」
俺の言葉にレジアスさんは満足そうに頷くと、前の席を指しながら言う。
「さあ、座りなさい……今日は、オーリスに付き合わされて大変だっただろう?この子は、昔から強引な所があるからな。この前も……」
促され席に座ると、レジアスさんが笑いながら話しかけてくる。
「もうっ!お父さん!」
お父さん!?……ああ、そうか!何で気付かなかった俺……ファミリーネームが一緒だ……この二人親子なのか……
そのまま、少し緊張しながら話に混ざる。
初めは、おっかなびっくり話していたが、レジアスさんは気さくな人で話しやすく、食事が終わるころにはすっかり打ち解ける事が出来た。
何というかこうしていると……凄く偉い人って気がしないなぁ……
結局その後も、奉公期間の間、二人には殆ど毎日お世話になってしまう事になった。
でもそのお陰で俺は、2週間の奉公活動を、とても楽しく過ごす事が出来た。
ティアナside
——第四陸士訓練校——
一日の訓練を終えた私は、スバルと一緒に廊下を歩いていた。
今日でコウタが地上本部に奉公活動に行って一週間が経つ……ホント今度は一体何をしたのかしら……
アイツが居ないと、訓練の連携もいまいちな気がする。
初めは、スバルの事もコウタの事も、特になんとも思ってなかった。ただの仮チームでたまたま同室なだけ……
だけど一緒に過ごすうちに、段々と印象は変わってきた。
スバルはワガママだけど……馬鹿みたいに明るくて、前向きで、一緒にいるとなんだか楽しくて……
コウタは講義中に寝てたり不真面目なとこがあるけど……仲間想いで、優しくて、一緒にいると不思議と安心できて……
いつの間にか、仮のチームだった二人は大切なチームメイト……ううん、仲のいい友達になっていた。
そんな事を考えながら歩いていると、校内放送が聞こえてきた。
『ティアナ・ランスター訓練生。お客様がお見えです。第一応接室までお願いします』
……私に来客?……心当たりがない。
「……誰かは分からないけど、ちょっと行ってくるから、アンタは先に部屋に戻ってて」
「うん、わかったよ〜」
隣を歩くスバルに声をかけてから、私は応接室に向う。
数分歩いて、応接室に到着して、軽くノックしてから入室する。
すると中には、信じられない人物が居た。
「わざわざ呼び出して申し訳ない。初めまして、レジアス・ゲイズだ」
名乗られなくたってわかる。レジアス・ゲイズ中将……実質的な地上本部のトップとも噂される有名な人物……そんな人がなんで?
「あ、初めまして!ティアナ・ランスターです」
少し緊張しながら、返事をした後、レジアス中将に促されて席に座る。
「……今日君を訪ねさせて貰ったのは、君の兄ティーダ・ランスター一等空尉の件だ」
「!?」
重々しい様子でレジアス中将が、告げた兄さんの名前に思わず固まる。
なんで、レジアス中将が兄さんのことを?
予想してなかった事態の連続に、慌ててしまい思考が定まらない私……
しかし、さらに信じられない出来事が起こった。
レジアス中将は、言葉を止めて立ち上がると、私に深く頭を下げた。
「すまなかった!ワシの監督が行き届いていなかったばかりに、君の兄を侮辱するような発言をしたものが居て、君を深く傷つけてしまった」
「ッ!?」
謝罪?兄さんの事で……中将がわざわざ?
「勇敢に戦った同志を侮辱することなど、あってはならない事だ。そして、その事を知らなかったワシにも大きな責任がある」
「あ、あのどうか、頭を上げてください」
頭を下げたままで、謝罪を続けるレジアス中将に声をかける。
……なんて責任感の強い人なんだろう。兄さんの所属は空戦部隊だったし、陸戦部隊のレジアス中将が葬式の件を知らなくたっておかしなことなんかじゃない。
レジアス中将は、私の言葉に頭を上げて、真剣な顔で話し始めた。
「……こんな事を言っても君が受けた痛みが消えるわけではないし、何の慰めにもならないかもしれないが……言わせてほしい」
真剣な顔で話すレジアス中将の言葉を、姿勢を正して聞く私。
「君の兄、ティーダ・ランスター一等空尉は、けして無能な役立たずなどではない!市民を守るために命を賭して勇敢に戦った、誇るべき英雄だ!……ワシは、彼の名を生涯忘れないと誓う」
「〜〜!?」
涙が出そうだった……レジアス中将一人が、どう思ってくれたところで……兄さんが無能じゃないって証明できるわけじゃないし、私の目指すものも変わらない。
だけど、兄さんの戦いは無駄なんかじゃないって思っている人が居てくれる。
それが……どうしようもなく、嬉しかった。
「……あ、ありがとうございます」
溢れそうになる涙を必死にこらえながら、レジアス中将に頭を下げてお礼を言う。
レジアス中将の言葉で、私の心がかなり軽くなったような気がした……
だけど、同時に疑問も沸いてくる。
「あ、あの……レジアス中将。質問してもよろしいですか?」
「ああ、かまわんよ」
「……なぜ、今になって突然?」
兄さんが死んだのは3年前、その時点でレジアス中将が兄さんの事を知っていたら……これだけ、責任感が強く立派な方だ。きっとすぐに私の所へ来ていただろう。
「……恥ずかしい話だが、ワシはつい最近までティーダ一等空尉の件を知らなかった」
「……はい」
「一週間ほど前、地上本部に一人の訓練生が殴りこんだ……その訓練生は首都警備隊の三佐に向って『ティーダ・ランスターに言った言葉を取り消せ!』と叫んでいたそうだ……」
「!?」
一週間前……そんな馬鹿な事を平気でやる奴……心当たりが一人いる。
「そしてその訓練生は、煮え切らない態度をとる三佐を殴り飛ばした」
「!?!?」
レジアス中将の言葉に驚愕する私。
私達訓練生にとって、佐官は雲の上ほどの権力を持った相手だ……それを殴るなんて……あの馬鹿……
……私の……私なんかの……ために……
……限界だった。
私は、我慢できずに涙を流す。
「その現場をたまたま通りかかったワシが、その訓練生に話を聞く事になり。全てを知った……というわけだ」
レジアス中将が話を締めくくるが、私は俯いたまま泣き続ける。
コウタは、馬鹿だ……知り合ってたった半年の私の為に……自分の事なんて何も考えずに……本当に大馬鹿だ……ありがとう……
泣き続ける私に、レジアス中将は微笑みながら優しい声で話しかけた。
「君は……良い友達を持ったな」
「……はい……」
そのまま私はしばらく泣き続けた後、レジアス中将に何度もお礼を言って、応接室を後にした。
たぶん、コウタに聞いたところで……適当にとぼけるだろうから、コウタにはこの事は言わない。
それに、何があっても……私が目指すものも、目指す動機も変わらない……この先も立ち止まらずに進んでいく。
だけど、どうせなら……スバルとコウタと、三人並んで一緒に成長していきたい……そんな風に思い始めた。
その為には、もっともっと頑張らないといけないわね。
そんな事を考えながら歩いていると、ふと廊下に貼ってある訓練日程の用紙が目に留まる。
……そっか、コウタが戻ってくる頃にはもう2月か……
……チョコレート……作ってみようかしら?
************************************************
あ、ありのままに起こった事を……私はコウタとレジアスの話を書いていたつもりだったが、書き終わってみたらレジアスとティアナの話だった(;‾Д‾)
スバル達が訓練校に入学したのが6月だから……計算的には2月で会ってる……はず?
しかし、うん……やっぱナイスミドルは良いなぁ……
おっさんかっこいいよおっさん。
さて、これにてコウタの過去の話は一旦終わりで、次回話は現在に戻ってなのは、フェイト、ヴィータとの話ですね。
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