拍手お礼用番外編・過去分

□君を呼ぶ声
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『終わりから始まりへ』









――あれ? ここどこだろ?


――私は……そうだ、死んだはず……


――これが死後の世界ってやつなのかな?


――あはは、全然変わんないって言うか……えと……


――どうみても、ミッドチルダに見えるんだけど……


――具体的には良く知ってる、南部のアルトセイム地方……


――どうなってるんだろ、これ?









――ミッドチルダ南部・アルトセイム地方――


妙な状態で気がついてから少し、私は戸惑いながら周囲を見渡していた。

ごくごく普通の建物、何度も見覚えがある空……何か知らないけど半透明で浮いてる私……

これ、幽霊ってやつなのかな? びっくりした……死んだのって初めてだったけど、こういう事もあるんだ……

けど、ラッキーかもしれない……だって……

頭の中で簡単に考えを纏めて、私は目の前のベットで眠る赤ん坊に目をやる。

もう二度と会えないと思っていた自分の子供……

や、私はこんな状態だから会えてる訳じゃないんだけども……この子の行く末が見れるのは嬉しいな……

出来れば幸せな人生を送って欲しいけど……どうなるのかな……










――数年後――


「このクソガキ! なんだその反抗的な目は!」

したたかに酔った様な印象の男が、私の子供に向って拳を振り上げるのが見えて……私は慌ててその間に割って入る。

――なんてことするの!? この子はまだ4歳なんだよ!

けれども、その拳は私の体をすり抜け……目の前の男を睨んでいた銀髪の子供を殴り飛ばす。

「……」

「チッ!」

床に倒れた子供を見て、男は悪態を付きながら何処かへ行き……私は慌てて子供に駆け寄る。

――だ、大丈夫? や、大丈夫じゃ無いよね……殴られたもんね!? い、痛くないの?

必死に声をかけようとするが、どんなに叫んでも私の声は音には変わらず……子供はそのまま無言で立ち上がる。

私の姿は、誰にも見えない……や、幽霊なんだから当然って言えば当然なんだけど……

この姿になってからすでに数年が経ち、私は自分の子供の成長を見ていたんだけど……酷い物だった。

や、たとえこの子を守る為とはいえ、名前も付けず殆ど抱いてやる事も出来なかった私が……自分の子供なんて言う資格は無いのかもしれないけど……それでも、心配な物は心配だ!

この孤児院は、経営者が援助金を着服したい為だけの場所で……子供達はぞんざいな扱いを受けていた。

――ごめんね……本当に知らなかったの! 調べる時間が無くて、こんなに酷い孤児院だとは思って無かったの!?

涙一つ見せる事無い自分の子供を見て、私はこの数年で口癖になりつつある謝罪の言葉を口にする。

なんとか助けてあげたいけど……私は何にを触ろうとしてもすり抜けちゃうし、どうする事も出来ない。

私の子供……息子はどうもかなり大人びた子どもみたいで……泣いてるとこなんて一度も見た事が無いぐらいだった。

ただ全然人付き合いはしないみたいで、同じ孤児院の子供達と話す事も無く何時も窓際でつまらなそうな目で外ばっかり見ている。

そんな態度が経営者には癇に障る様で、事あるごとに殴る蹴るの暴行を加えられてる……

うぅ、ジェイル……私の『二つ目のメッセージ』に気付いてるんなら、早くこの子を迎えに来てあげて!!

もうこんなの見てられないよ……って、わわっ!?

頭の中でジェイルの事を思い浮かべていた私だが、直後に体が引っ張られるような感覚がする。

息子が自分で歩くようになってから分かった事なんだけど……どうやら私は、この子からあまり離れる事が出来ないらしい。

距離にして最大で10mぐらいかな? それ以上離れると、強制的に引っ張られる見たいだった……これってあれかな? 背後霊ってやつ?

息子はそのまま孤児院の児童全員で一部屋の狭い寝室に移動し、まだ夕方だと言うのに布団を被って寝てしまう。

――あれ? もう寝ちゃうの?

返事は返ってこないのは分かっているんだけど、なんだか生きてた時の癖みたいでついつい話しかけちゃう。

当然息子から言葉は返ってこず、そのまま眠りにつく。

この姿になってから私はお腹が空く事も、眠たくなる事も無くなってしまったのでそのまますやすやと眠る息子の寝顔を眺め続ける。






どれぐらいの時間が経っただろう? 辺りが真っ暗になってしばらくたった後、息子はゆっくりと起き上がり部屋の外に出て行く。

――どこいくの? トイレ?

その後ろをふわふわと浮きながらついて行くと、息子は院長室の場所にたどり着き……ポケットから小さな針金の様な物を取り出す……って、ちょっ!?

驚愕する私の眼前で、息子は鍵穴に針金の様な物を入れカチャカチャと動かす。

すると少しして大きな音がし、鍵がかかっていたはずのドアが開く……

――何処でそんな事覚えたの!? だ、駄目だよ勝手に入っちゃ……又叩かれちゃうよ?

慌てる私の前で息子はそのまま部屋に入っていく……ここは、経営者の寝室とは別の応対用の場所なので、今の時間は誰も居ない。

息子はそのまま部屋の一画にある金庫の前に立つ……まさか……まさかだよね?

そのまま息子は、何時の間に調べたのか迷う事無く金庫にパスワードを入力してそのドアを開く。

そして中に入っていたお金をひと握り手に取り、そのままその部屋を立ち去る。

――ね、ねぇ……お金なんて取ってどうするの? 変なこと考えてないよね?

息子の正面に回ってふわふわ浮きながら必死に声をかけるが……当然聞こえるはずも無かった。

そしてそのまま息子は玄関で靴をはき……外に出る……ちょっと……

そしてすっかり闇に包まれている道路をしばらく歩き、市街地に近付いた所で公衆電話らしきものを発見してその中に入る。

電話? 何処に電話するんだろ?

体が透けるのを良い事に、私は息子の持った受話器にひっつく様にして聞き耳を立てる。

『はい、こちら時空管理局です』

「初めまして、違法孤児院を通報したいのですが……」

――ちょ、何やってるの君!? って言うか、何処で敬語なんて覚えたの!?

電話の相手に驚愕する私の前で、息子は4歳とは思えない丁重な口調で正確にあの孤児院の実体を通報する。

――ねぇ、君4歳だよね?

そんな息子を見て私は、茫然と呟く……な、なんなのこの子?
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