拍手お礼用番外編・過去分

□三度目の人生
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『沈む太陽』








長く続いた旧暦時代が終わると同時に生まれた時空管理局……時代が新暦へ移り変わり、人の生活も変化していった。

新暦という時代の中で、伝説の三提督という存在が生まれ……そして世代を変え、時空管理局は発展していった。

魔法技術は発展し、管理局の歴史に置いて伝説の三提督と並び称される魔導師達も現れ始めた。

最も有名なのは、魔導師としての能力を示す魔導師ランク……その魔導師ランクにおいて、明確な基準も無く誰もたどり着いた事の無かった……設定上の限界値SSSランクにたどり着いた三人の魔導師……

高町なのは、フェイト・テスタロッサ・ハラオウン、八神はやて……この三人は世界から『伝説の三魔導師』と呼ばれ、管理局の中心人物として時代を牽引し続けた。

そしてそんな三人の切り札と呼ばれた……五人のSSランク魔導師達……

普段はそれぞれバラバラの役職についていたが、大きな事件が起こると三魔導師の元へ終結し……その力で幾度となく世界を救い続けてきた。

その五人のうちの一人……『翡翠の太陽』と呼ばれた魔導師、コウタ・エルザード・ゲイズ……

多くの実力者が存在する管理局において「『最強』の魔導師と言えば?」と尋ねて、彼の名前が出る事は殆どない。

しかし「『最高』の魔導師と言えば?」と尋ねれば、殆どの人が彼の名前を挙げる。

かの三魔導師の一人であり、教導官として多くの有能な魔導師を育てた高町なのはも、教導の席で彼の名を上げ『目指すべき魔導師の理想型』とまで語った事もある。

彼がそう呼ばれるに至った原因としては、数々の常識を覆した功績にある。

万能型は特化型に劣るという今までの魔導師の常識を覆し、全ての面において並のSランク魔導師より高い能力を発揮……超万能型と呼ばれた事……

インテリジェントデバイスとユニゾンデバイスの二つの顔を持つ新たな基準のデバイスを開発したりなど、あらゆる分野において彼は魔法の持つ可能性を広げ続けた事……

そして何より彼の名を語る上で外せないのは、魔法生物との対話を可能にする翻訳機の開発だ。

それにより召喚魔法の常識は変わり、直接対話して契約を結ぶことで希少技能が無くとも召喚魔法を使用する事が可能になり、召喚魔法という存在を広く浸透させた。

これだけ多くの功績をあげながらも、彼は生涯重職に就く事は無く……老いて体の自由が利かなくなる瞬間まで、魔道師として前線に立ちあらゆる可能性を追求し続けた。

前線から退いた後も、教導官として後続の育成と魔法技術の発展に力を注いだ。

彼は魔法の持つ可能性を体現したような人物だった……本来なら信じられない様な夢物語も、魔法に対しての常識も……彼は叶え、覆してきた。

奇跡を起こし、常識を覆す……魔法技術が一般化してから長く忘れられていた魔法の原点ともいえる気持ち……

未来を照らす希望そのものとも言える彼を、人は太陽に例え『翡翠の太陽』と呼んだ。

しかし、太陽はいつしか沈む様に……彼もまた永遠の存在では無かった。

数々の常識を覆してきた彼だが、人間としての運命は覆す事は出来ず……人々の心を希望の光で照らしたもう一つの太陽は……間も無く役割を終えて沈もうとしていた……








――ミッドチルダ・病院――


見慣れた病院の一室でベットに横たわる俺の周りには、病室に入りきらない程の人が集まっていた。

一緒に戦った同僚、お世話になった人達、俺の教え子達……本当にたくさんの人達がいる。

この世界に生まれ変わってから90年と少し……俺の寿命は間も無く終わろうとしていた。

老いて上手く動かなくなった体とは裏腹に、不思議と心は若いままだった……それは俺が少し特殊なせいかもしれないな……

もう殆ど開かない目を動かして、周囲に居る人達の顔を心に刻んでいく。

出来れば話もしたかったが、口には呼吸器が付けられていて喋る事は出来ない。

俺の横たわるベットの横には心電図があり、その機械にはジェミニが取り付けられていた。

そして俺のリンカーコアには、90%近く俺と融合したフェニックスも……

(二人共……考え直す気はないのか?)

残った僅かな魔力を振り絞り、ジェミニとフェニックスに念話を飛ばす。

二人は、俺の命が終わると同時に……自分達を消滅させようとしていた。

ジェミニは俺の心電図と連動し、俺の命が尽きると同時に自身の内部データを全て破壊すると語り……フェニックスは俺のリンカーコアと完全融合し、俺の命が終わると同時にそれをジェミニが破壊することで……不死身とも言えるその命を終わらせようとしていた。

そんな二人に対し、俺は確認する様な質問を投げかける。

(ジェミニは、今だって一線で活躍できる性能があるんだし……フェニックスも、もう他の人と会話する事も出来るだろ? 新しいマスターを見つけたっていいんだぞ?)

ジェミニは常に自身の改良を怠らず、最新鋭のデバイスと比べても遜色のない性能があった。

フェニックスも俺がグノーシスで認識できる魔力波長を全て測定し、作り上げた翻訳機により他の人物とも会話する事が出来るようになっていた。

そんな俺の念話を聞き、二人は考える間もなく言葉を返してくる。

(そんな気は欠片もありません……私にとってマスターは、未来永劫貴方一人です。だから、貴方の命が終わる時が……私の命の終わる時です)

(友よ……貴方は本当に偉大な人物です……この先、貴方以上のロードなど現れるはずありませんよ。なにより私は友の為だけの翼です……ならば、最後まで共に……)

(……二人共……)

俺は魔道師として前線を退いてから、幾度となく二人に同様の話を持ちかけた。

しかし結局、二人の意見は最後の最後まで変わらず……俺と共に死を選ぶと語った。

(何度言っても無駄ですよ。マスター、私達の考えは変わりません)

(その通りです……私もジェミニ様も、ずっと友と一緒に居たんです……そして、それはこれからも一緒です)

((私達は、死の一瞬でも……貴方を一人にしたりはしない))

(!?)

声を合わせる様に語った二人の言葉を聞き……俺の心は暖かい喜びに包まれる。

(……ありがとう……もう、何も言わないよ……お前達と会えて、本当に幸せだった)

(私もです……それでは、そろそろ完全に融合いたしますね)

俺の言葉を聞き、フェニックスは完全に俺のリンカーコアに融合を始める。

先程までは念話での会話を行えるようにと、僅かに残していてくれたみたいだ。

俺は残り少ない自分の命を悟り、ジェミニと最後の念話を交わす。

(マスター……愛しています。ずっとずっと……誰よりも……)

(うん……俺も……愛してる)

簡単な言葉を交わすと同時に、リンカーコアにフェニックスが完全に融合する。

それを感じ取った俺は、最後の力を振り絞って周囲に居る人達の顔をもう一度見渡す。

皆の目には涙が溢れ、口々に何かを語っている様だが……もう、耳も上手く聞こえない。

ゆっくりと自分の命が消えていくのを感じながら……それでも俺の心は、穏やかなままだった。

俺にとってはこれが二度目の死……だけど、一度目とは全く違っていた。

この世界に生まれ、皆と出会って……俺は、本当に幸せだった……


心に優しい暖かさを感じながら、俺はゆっくりと目を閉じる。


……ありがとう皆……そして、ありがとう神様……俺を……この世界に……生まれ変わらせてくれて……













































ベットから転げ落ちるような感覚がして、俺の体に強い衝撃が走る。

「いったっ!?」

どうやら頭から落ちた様で、痛む頭を摩りながら俺は起き上が……え?

満足に動かなかったはずの体が自然と動いたのを感じ、俺の思考が戸惑いに埋め尽くされる。

そして直後に、聞き覚えのある声が聞こえてきた……

≪ま、マスター!? そのお姿は!?≫

「ジェミニ? 姿?」

ジェミニの声を聞き、俺は首をかしげながら起き上がり……壁に掛けてあった鏡を見て停止する。

そこに写っていたのは……間違い無く俺だった……

しかし、その姿は……10代の時のものだった……

「………………は?」

こうして、不思議な形で……俺の三度目の人生は幕を開けた。
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