拍手お礼用番外編・過去分

□特別番外編
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このお話しは三度目の人生の番外編。

三度目の人生において過保護な程にコウタにデレデレなシュテルが、どんな心境でそうなったかのお話です。







『RESURRECTION FLAME』(1/4)









――ミッドチルダ西部――


ミッドチルダ西部にある一際大きな建物……時空管理局に所属する複数の地上部隊が訓練等で使用する施設。その一角で轟音と共に炎が舞い訓練スペースの3分の1程を土煙が覆う。

少ししてその煙が晴れるとそこにはただ一人悠然と立つ茶髪の少女と、横たわる無数の魔導師らしき人影が見えてくる。

独立航空部隊ダークマテリアルズに籍を置く少女……管理局内でも屈指の実力者と名高い星光の殲滅者・シュテル・スタークスは周囲の光景を見渡し、静かに溜息を吐く。その表情には疲労の欠片も見て取る事は出来なかったが、同時に勝利の喜びも感じられない……周囲の状況にまるで興味が沸かないとでも言いたげな、どこか諦めすら感じる表情。

そのままシュテルは周囲に横たわる魔導師達を一瞥し、訓練スペースから去っていった。

























訓練を終えシャワーを浴びた後で、ディアーチェ達と合流する為に廊下を進んでいると前方から複数人の局員が歩いてくるのが見えました。

歩いてくる顔には見覚えがある……いや、あって当然。先程まで同じ訓練を行っていた面々。

「「「「お疲れ様です。シュテル一尉」」」」

「お疲れ様です」

私の姿を見つけ、深々と頭を下げながら口を開く局員達に簡潔に言葉を返します。

「いや〜流石は星光の殲滅者と謳われる実力者、『思っていた通り』一体複数の模擬戦でも歯が立ちませんでした」

「同感です。流石は局内でも屈指の才能を誇る一尉、一時とは言え訓練をご一緒できて『嬉しい』限りです」

「……」

口々に褒め言葉のように告げる者達を見て、私は心の奥で黒い感情がざわめくのを感じます……何故この様な言葉を平然と言えるのでしょう? 模擬戦とはいえつい先ほどまで刃を交えていたというのに……

そのまま口々に続けられる言葉を聞き流しながら静かに告げる。

「……それだけ、ですか?」

「え? それだけとは?」

「貴方達は……私に勝ちたいとは思わないのですか?」

私を褒めている暇があるならば、今回の模擬戦での反省点の一つでも語ってみたらどうかという意味を込めて告げましたが……返って来たのは虫唾が走る様な言葉でした。

「と、とんでもない。我々程度の魔導師が一尉に勝とう等、恐れ多くて口にも出来ませんよ」

「そうそう、凡人は凡人らしく、適当にやっていきますよ」

「……」

平然と告げられる向上心も反骨心も感じられない言葉。合同訓練を初めてからこの者達はずっとこう……強くなろうと努力する訳でもなく、訓練も言われた事を言われたままにこなすだけ、時間がくればさっさと切り上げる。

もはや私はそれ以上何も言う気にはならず、言い様の無い苛立ちを感じながら無言でその集団から離れ廊下を進みます。

ここ最近はずっとこんな心境といっていい……分からなくなってしまっていました。

「……(私は一体何をしたいのでしょう……何処へ行きたいのでしょう……)」

以前は当たり前の様にあった筈の心の中に沸き上がる熱い炎……今はそれすら感じる事が出来ない。以前に比べて強くはなれた……自由が効くだけの地位も手に入れられた……

ナノハ、妹氏、守護騎士達と模擬戦を行っている時は一時だけこの鬱屈とした感情を忘れられる。だけどそれは一時的なもので、すぐにまたこの苛立ちは返ってくる。

まるで毎日同じ場所をぐるぐると回っているかのような……私と言う存在そのものが緩やかに腐っていくような感覚……気持ちが悪い……



























――会議室――


「シュテル……気持ちは分かるが、奴等の人生は奴等の物。皆が皆お前の様に常に向上心を持って訓練を行える訳ではない」

「……合わせろと……そう言う事ですか?」

会議室でミーティングを行っていたダークマテリアルズの面々。話は当然現在参加している合同訓練の内容が中心となり、いつからだったかシュテルが少しずつ他の魔導師達への不満を口にし始め……いつの間にかミーティングという形式から、ディアーチェがシュテルをたしなめる様な会話へと変化していた。

「そうは言っておらぬ。あくまで気にし過ぎるなと言う事だ。お前にはお前の、奴等には奴等の歩む速度と言うものがある。頭ごなしに否定するのではなく、ある程度は許容してやれ」

「……許容? 現状に胡坐をかき、上を向こうとすらしない者達など魔導師たる資格はありません」

明らかに苛立ちを露わにしながら話すシュテルを見て、ディアーチェは困った様な表情を浮かべ、傍に居たユーリとレヴィも戸惑う様に顔を見合わせる。

彼女達にとってこの事態は今まで経験の無いもの……そう、普段ならば彼女達四人の中で一番冷静で論理的なのはシュテルの筈だった。

しかし今のシュテルは明らかに冷静さを欠き感情的になっている様に見えた。普段の彼女からは想像できないその姿に戸惑いながら、ディアーチェは言葉を選ぶ様に告げる。

「……言い過ぎだシュテル。少人数で行動することの多い我等にとって、こういった合同訓練は貴重なもの……そして様々な人間がいるからこそそれは成り立つものであろう?」

「……あの様な者達と訓練を行うぐらいなら、一人で鍛錬を行っていた方がマシです!」

「シュテル!」

「ッ!? ……申し訳ありません……感情的になり過ぎました……少し、頭を冷やしてきます」

諭す様なディアーチェの言葉に対し、ついには怒鳴り声と言っていい程声を荒げたシュテルだが、直ぐ自分に非がある事は理解したのか、深く頭を下げた後で会議室から出ていく。

その後姿を見送りながら、ディアーチェは額に手を当てて苦虫を噛み潰す様な表情を浮かべる。

「シュテるんさ、最近妙にイライラしてるって言うか……なんか変だよね」

「ええ、あんなに感情的になる所なんて、初めて見ました」

シュテルが出ていった扉を見つめながらレヴィとユーリが言葉を交わし、それを聞いたディアーチェも静かに扉の方に視線を向けながら呟く。

「いずれはこうなると思っていたが……このままでは不味いな」

「ディアーチェ?」

「シュテルが本当に苛立っておるのは周囲に対してではない……自分自身に対してだ」

ディアーチェにはシュテルの心境が分かっている様子で、その言葉を聞いたユーリとレヴィは視線をディアーチェに移し次の言葉を待つ。

「奴は常に高みを目指す向上心の塊といっていい……それはシュテルの魅力であり、奴が奴たる所以だ……しかし、永遠に歩みを止めることなく歩き続ける事が出来るものなど居ようはずがない」

「……」

「奴とていつかは壁にぶつかり足が止まる。それが悪いことではない、大きな壁を超える為にその場に留まるのも重要な事だ……だが奴の心は停滞を良しとしない。立ち止まり進む事が出来ない自分を許さない」

ディアーチェの言葉通り、シュテルはその冷静な性格とは裏腹に燃え盛る炎の様な心を持った人物であり、その燃え盛る炎は向上心と言う形で彼女の行動に現れる。

愚直なまでに高みを目指す……しかしその歩みが止まれば、彼女の内にある炎は彼女自身を焼き始める。

「以前より少しずつその兆候は見えておった。高町なのはや黒ひよこと模擬戦を行っていても、前ほどの勢いは感じられなくなっていた……まぁ、いかに好敵手との戦いとは言え何十何百と戦っていればそうもなる」

以前は模擬戦の最中にも深い笑みを浮かべていたシュテルだが、最近では最大のライバルと言っていいなのはとの模擬戦でも笑みを浮かべる事は無くなっていた。

それはシュテルが戦闘においても合理的で無駄のない戦闘を行うからこそ……互いに手の内を知り尽くした者同士の戦い、そこから無駄を省けばおのずと戦局も毎回似通ったものになってしまう。

「その上ここの所大きな事件も無い……停滞を良しとしない奴だからこそ、その繰り返しの様な毎日に苛立ちを感じていたのであろう。この合同訓練が良い刺激になればと思うていたが……上手くはいかないものだな」

「……急に地上部隊との合同訓練を取り付けたのは、シュテルの為だったんですね」

「ああ、だがかえって逆効果だったようだ。向上心の見えない奴等を見て、シュテルはそれを停滞している自分に重ね……いっそう苛立ちを強くしてしまった」

「……シュテるん。大丈夫かな?」

「……なに、心配はいらん。此度は上手くいかなんだが、まだ他にも手はいくつも用意しておる」

心配そうに呟くレヴィの言葉を聞きディアーチェは微笑みを浮かべ、任せておけという風に言葉を発する。

その言葉を聞いてユーリとレヴィは安心した様子でホッと胸を撫でおろし、そのまま少し打ち合わせをしてからそれぞれの仕事に戻っていく。

二人が部屋から去るまで微笑みを浮かべたままだったディアーチェは、二人の姿が見えなくなってから悔しそうに唇を噛みしめる。

手はいくつも用意している……そんなものは咄嗟に口から出た嘘だった。

ディアーチェはもっと以前からシュテルの状態には気が付いていた。しかしそれをどうすれば解決できるかが浮かんでこなかった。

単独での戦闘能力、それにおいてはディアーチェよりシュテルの方が上だ……そのシュテルがぶつかっている壁の越えかたは彼女には分からない。

一番初めに浮かんだのはシュテルが刺激を受けられるような魔導師を見つけ模擬戦を手配してやるという手段。しかしそんな相手はどこにもいない。

確かに管理局には多くの強者がおり、なのはを筆頭にシュテルと渡り合える……あるいは勝つことのできる者だっている。しかしそれがシュテルにとって刺激になるかと言えば、とてもそうは考えられなかった。

いかに強者と言えど……いや強者だからこそ、砲撃魔導師ならば砲撃魔導師の、ベルカ騎士ならベルカ騎士の戦い方をするだろう。ならばそれはシュテルにとって相手の名前や姿は変われど、なのは達と模擬戦をしているのとさした変化は無い。

今回の合同訓練はディアーチェにとっても苦肉の策だった。それが失敗に終わった今の彼女に、次の手は思い浮かんでこなかった。

ディアーチェは悔しそうに唇を噛みしめた後、力任せに会議室の壁を殴りつける。

「……苦しんでいる……家族の悩み一つ解決出来んで……なにが……王だ……」

脳裏に浮かぶのは少し前に見たシュテルの表情。声を荒げ叫ぶように告げる彼女の顔は……今にも泣きだしそうで、救いを求めていた。
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