魔法少女リリカルなのはStrikerS〜氷河の剣〜
□聖王教会騎士団所属時代
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一人の休日と二人の訓練生(1/2)
――新暦72年8月――
――ベルカ自治区・聖王教会――
ミッドチルダ北部、ベルカ自治区に位置する聖王教会。その裏庭では薄い青髪の少年が鍛錬を行っていた。
やや癖のあるフワリとしたショートヘア、顔立ちはまだ幼く10人に聞けば6人以上は女の子と間違えそうな外見の少年は黙々と剣を振り続ける。
130cmに届かないと思われる小柄な体からは、想像も出来ないような速度で振られる剣は、その少年が高い技量をもっていることを伺わせた。
そんな少年の元に、赤紫ショートヘアの女性が近付いて行く。
「早くから精が出ますね。リン」
その声を聞いて、リンと呼ばれた少年は剣を鞘に納めて頭を下げる。
「おはようございます。シスターシャッハ」
「おはようございます。騎士カリムがお呼びですよ」
シャッハの言葉に、リンは顔を上げて返事をする。
「騎士カリムがですか? 急ぎの用でしょうか?」
「いえ、シャワーを浴びてからで構いませんよ」
汗をかいている自分の姿を見て話すリンの質問に、シャッハは微笑みながら応える。
「……では、15分後に部屋に伺わせていただきます」
「分かりました。騎士カリムにはそう伝えておきます」
リンは時計を確認して答え、シャッハに一度頭を下げてから自室の方へと向かう。
シャッハは真面目なリンならピッタリ15分で来るだろうと後姿を見ながら微笑む。
――カリム執務室――
「……休暇ですか?」
僕は目の前に座る長い金髪の女性……はやて姉さんの知り合いで、今の僕の上司に当たる騎士カリムに聞き返す。
「ええ……リンがここにきて、もう数カ月経つけど……まだ一度も休暇を取ってないでしょ?」
「はい、言われてみれば……確かに」
はやて姉さんが中学校を卒業した後、八神家はミッドチルダのクラナガンへと引越しをした。
丁度前々から様々な場所で経験をと考えてた僕は、その機会に姉さん達の元を離れしっかりと経験を積みたい事を相談した。
そしてはやて姉さんの紹介で聖王教会の騎士団に所属を移し、騎士見習いとして住み込みで働いている。
姉さん達の元を離れ一人で仕事を行うのは初めてで、多くの戸惑いや混乱もあった。
それでも紹介してくれた姉さんに恥をかかせないようにと、がむしゃらにやってたせいか……気がつけばもう4ヶ月近く経っていた。
「真面目な貴方は、中々自分からは休暇を申請しないでしょうし、この辺で2日くらいの休暇を強制的にね」
そう言って優しく微笑む騎士カリム。
少将という非常に高い階級の偉い人なんだけど、とても優しい人で……姉さん達の元を離れて働く僕を、よく気にかけてくれてる。
「わかりました。それでは、休暇の件ありがたく頂きます」
あまり心配をかけるわけにもいかないし、僕も久しぶりに姉さん達に会いたかったので、ありがたく休暇をいただく事にする。
「うん、素直でよろしい。じゃあゆっくり……街にでも出て楽しんでくるといいわ」
「はい! ありがとうございます。では、失礼します」
「ええ」
優しく微笑みながら話す騎士カリムに、僕は丁寧に頭を下げてお礼の言葉を返して部屋を後にする。
騎士カリムの部屋から出た後、僕は歩きながら端末を開き通信をする。
『うん? リン、どうかしたんか?』
「はやて姉さん、今お時間大丈夫ですか?」
モニターに映るはやて姉さんを見て、僕は少し考える様に尋ねる。
はやて姉さんはここ最近特に忙しいし、通信をするのも少し気を使う。
『うん、大丈夫や』
「では……えと、休暇がいただけたので今日と明日、家に戻ろうと思うのですが」
『お、ホンマか!? ナイスタイミングや! 他の皆も、今日の夜には仕事も一段落しそうやし……今夜は家族皆で食べれそうやな』
「ホントですか!? ……すごく楽しみです」
はやて姉さんの言葉に嬉しくなる僕、姉さん達はミッドに引っ越ししてから皆忙しく、中々連絡も取れなかったので久しぶりに会えるのは本当に嬉しい。
『えと、多分皆18時ぐらいには終わる思うけど……リンはそれまでどうする?』
「あ、騎士カリムが街に出て楽しんできなさいって仰っていたので、クラナガンのメインストリートに行こうと思ってます」
『そっか、じゃあこっちが終わったら連絡するから。それまではせっかくの休日をしっかり楽しんどいで』
「はい!」
はやて姉さんの質問を聞き、僕は先程の騎士カリムの言葉を思い出しながら返事を返す。
『うん、それじゃまた後でな』
「はい、お仕事頑張ってください」
『おおきにな〜』
そう言って通信は終わる……前から思ってたんだけど、なんだかはやて姉さんの言葉って微妙に皆と違うような?
なんか使う雰囲気で、大体の意味は分かるけど……
――ミッドチルダ中央区・首都クラナガン――
多くの人で賑わう、首都クラナガンの街……そこまで辿り着いて僕は、重大な問題に直面していた。
「ねえ、フェンリル」
≪なんでしょうか?≫
僕は周囲を歩く人を見ながら、とりあえず自分のデバイス……フェンリルに相談をする事にする。
「……休日って、何をすればいいのかな?」
≪……申し訳ありません。質問の意味が分かりかねます≫
物凄く真面目で口数の少ないフェンリルは、簡潔に返事を返してくる。
「えと騎士カリムも、はやて姉さんも『楽しんで来い』って言ってたし、楽しく過ごさないといけないと思うんだけど……なにをすれば楽しく過ごせるのかな?」
≪今まで過ごした休日を参考にすればよいのでは?≫
首をかしげながら話す僕の言葉を聞き、フェンリルは良く分からないといった感じに言葉を返してくる。
「うん、それが一番の問題なんだ。僕、よく考えれば姉さん達と一緒に遊びに行った事はたくさんあるけど……一人で遊びに来たのは……初めて」
そうこれが問題、姉さん達と休日を過ごしたり街に遊びに行った事は何度もあった。
でも、姉さん達の都合がつかない時は自己鍛錬してた覚えしかない。
姉さん達と行った所も、一人で行くような場所は思いつかない。
「……さて、どうしようかな」
≪……マスターが楽しめるかどうかは保証しませんが、いくつか一般的なプランを検索しましょうか?≫
フェンリルのが提案してくれた言葉を聞いて、僕は腕を組んで少し考える。
「う〜ん、ありがたいけど……せっかく騎士カリムがくれた休暇だし、自分で楽しめるように考えてみるよ」
≪相変わらず真面目ですね……分かりました。御用の際はまた声をかけてください≫
「うん、ありがとうフェンリル」
フェンリルにお礼を言って、歩きながら考える。
何か街で出来る事は……買い物?
そういえば、練習刀の研磨剤がそろそろ……って違うそれじゃ駄目だ。
何処か今まで言った事のない場所へ行くとか?
そういえば、確か新しいスポーツジムが出来たって聞いた様な……いや、これも駄目だ。
どうしてもすぐ仕事と鍛錬に考えが傾く中、僕は注意が疎かになっていた。
「ちょっと!? スバル! 前!?」
「え? ……うわぁあ!?」
そんな声が聞こえた時にはもう遅く、僕は誰かとぶつかりそのまま仰向けに倒れた。
……失態だ。
考え事をしてて周囲への注意が疎かになるなんて!? 騎士失格だ!?
こんなこと、シグナム姉さんにばれたら殺される!?
って、それよりぶつかった人に謝らないと……
混乱する頭で目の前の人を起き上がらせようと、僕は深く考えず正面に手を伸ばす。
「きゃ!?」
すると手が何か柔らかいものに触れ、僕の思考が完全に停止する。
ゆっくり視線を上げると……目の前には青髪の綺麗な女性がいて、その女性の胸に当たる部分を触っている僕の手があった……
頭の中が真っ白に塗りつぶされる様な感覚がした……
首都クラナガンのメインストリート……毎日多くの人で賑わう通り。
今そこでは、通行人の足を止める異様な光景が繰り広げられていた。
立ち止まる人々の視線の先に居るのは、二人の女性と一人の子供。
二人の女性はかなりの美少女だが、人々の視線が集まるのはそちらでは無く子供の方。
その薄い青髪の子供……リンは、地面に膝と手をつき、額をこすりつけるように土下座をしながら叫んでいた。
「本当に申し訳ありません!!」
必死という表現が当てはまるような大声で、地面に顔を付けたまま謝罪をする子供。
しかし、慌てているのは寧ろ二人の女性の方だった……こんな天下の往来で、10歳位であろう小さな子供を土下座させている様子は……誰の目に見てもその二人が悪者だった。
「いいって! ……分かったから! 許すから! お願いだから顔上げてよぉ〜」
なんとか土下座をやめさせようと、必死に声をかける青髪の女性……スバル。
「そうよ! 前見てなかったコイツが悪いんだから!」
同じく集中する通行人の視線に、焦った様な表情を浮かべながらリンに声をかけるオレンジ髪の女性……ティアナ。
彼女達は陸士訓練学校に通う訓練生で、休日を利用してクラナガンへ遊びに来ていた。
そこでアイスクリームを買って食べながら歩いてたのだが、前を見てなかったスバルが小さな子供とぶつかってこけた。
そこまでなら……まぁ、スバルがおっちょこちょいな性格をしている事もあり、たまにあることだったので謝ろうと思っていたのだが……
問題はぶつかった子供の方で、いきなり膝と手をつき土下座をしてきた。
どうもこけた際に、スバルの胸に手が当たった事を深く気にしてるようで、先ほどから土下座したまま謝罪を続けられ二人は困り果てていた。
「本当に申し訳ありません! ……どのような処罰もお受けします! この体、煮るなり焼くなり好きにしていただいて構いません!」
土下座したままのリンは、目に涙を浮かべながら物騒な事を言い始め……それを聞いたスバルとティアナは、更に慌てて声をかける。
「そんなことしないから! ねぇお願い、もう顔あげてよぉ〜」
「そうよ、謝罪はもう十分伝わったから……ね」
「うぅ……はい」
何度目かの二人の言葉を聞き……ようやくリンは土下座をやめて顔を上げるが、その視線はある一点で固まる。
その視線の先には、先ほどぶつかった際にスバルが落とした7段のアイスクリームがあった……
それを見て状況を理解したリンは、分かりやすいほど顔を真っ青にして目に涙を浮かべながらポケットを漁る。
「あ、ああ、あの、べ、弁償を……」
慌てた様子で、ポケットから財布を取り出すリン……
騎士としての不注意、女性への無礼……真面目な性格で姉以外の女性とあまり接した事のないリンは、完全にテンパっていた。
そして、アイスクリームが数百個は買える程のお金を取り出し、二人に涙目で差し出す。
「こ、これでどうか……」
差し出されたお金を見て、二人は茫然とした表情で固まる。
涙目で、二人の女性にお金を差し出す幼い子供……
……周りから見れば、その光景は……紛う事無き『カツアゲ』であった。
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