魔法少女リリカルなのはStrikerS〜氷河の剣〜
□JS事件編序盤
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騎士号と初顔合わせ(1/2)
――新暦75年4月――
――聖王教会――
聖王教会の一室、カリムの執務室では、間もなく六課へ出向するリンがカリムに挨拶をしに訪れていた。
形式的な言葉を交わした後、カリムはリンに尋ねる。
「けど、リン。本当によかったの? 六課への『異動』じゃなくて『出向』扱いにしてしまって……貴方の実力なら、戦果の出しやすい機動課にいればあちこちから良い待遇で誘いが来るわよ?」
カリムが確認しているのは、リンの機動六課での立場の事だった。
異動という扱いの場合、所属を完全に機動六課に移すことになるので、稼働期間が終わった後はスカウトを受けた部隊や、希望配属と言う形で次の進路を選ぶ事が出来る。リンは実力があり、将来の成長も期待できる年齢……多くの部隊からスカウトされてもおかしくはない。
しかしリンは六課へ異動ではなく、出向という形で配属されることを望んだ。それは、稼働期間が終わった後は聖王騎士団に戻ってくるということだった。
カリムにとっては嬉しい話ではあるのだが、自分達に気を使ってそういう形にしたのではないかと、不安もあった。
しかし、リンは迷いのない顔でカリムの問いに答える。
「はい! ……その、確かに初めてここに来た時は将来の為に経験をって考えてました。でも、騎士団の一員として3年過ごして、沢山の事を知って、今はこの仕事に誇りを持っています……はやて姉さんが『本当の意味』で自分の夢を叶えて、部隊を持った時はそちらに行くかもしれませんが……少なくともまだ、僕は聖王騎士団に居たいです」
リンはカリムの方を見たまま、しっかりと自分の意思を伝え、カリムもそれを聞き微笑む。
「ふふ、3年で本当に立派に成長したわね……」
カリムは微笑みながら時計を見て、リンが出発する時間が近い事を確認すると、リンの方に向き直り言葉を続ける。
「それじゃあ、もうすぐ出発だけど……その前に私からリンに、贈りたい物があるの」
「……僕にですか?」
少し首をかしげるリンを見た後、カリムは真剣な表情になり凛とした声で告げる。
「聖王騎士団所属、八神リン。私は3年間の貴方の働き、技量を認め騎士号を与えます。これから先は、『騎士見習い』ではなく『騎士』と名乗ってください」
「!?」
丁重な口調で話すカリム……『騎士』とは、今でこそベルカ式魔道師の登録上の呼称となっているが、本来は実力を認められた証として与えられる号であり、リンも登録上はすでに『騎士』となってはいたが、自身が未熟である証として『騎士見習い』と名乗っていた。
リンは突如告げられた言葉に少し固まった後、真剣な表情で敬礼をする。
「騎士の名……ありがたく頂きます。そして、その名に恥じぬよう精一杯頑張ります!」
真剣な表情で答えるリンを見て、カリムは微笑み……リンの近くまで行き、リンを優しく抱きしめる。
「これから、大変な事が沢山あると思うけど……頑張ってね。リン」
「……はい」
「私は、貴方の味方だから……いつでも頼ってくれていいからね」
「はい……行ってきます。カリム『姉さん』」
「……行ってらっしゃい」
言葉をかわし、互いに微笑みあった後、リンは六課へ出向する為部屋を後にする。
リンが部屋を去り少しして、シャッハが部屋に入ってくる。
「シャッハ……リンとは?」
「先程、そこで挨拶を済ませました」
カリムの言葉の意図を察し、シャッハは微笑みながら答える。
そして、カリムは自分の席へ座り少し寂しそうな顔で呟く。
「一年か……寂しくなるわね」
「……そうですね。模擬戦をするたびに成長するリンとしばらく手合わせできないのは、残念です」
少し言葉を交わした後、カリムはリンが出発した事を迎えの人物に伝える為に通信を開く。
――レールウェイ乗り場――
聖王教会を出たリンは、エリオとキャロの迎えに参加する為に、シグナムと待ち合わせている場所へ向かっていた。
待ち合わせの時間まではまだ少しあったが、待ち合わせ場所にはすでにシグナムが居て、リンは急いで駆け寄る。
「すみませんシグナム姉さん。お待たせしました」
「いや……時間にはまだなってない。大丈夫だ」
駆け寄ってきたリンを見て、シグナムは微笑みながら答える。
そして少し会話した後で、二人はレールウェイに乗って移動する。
「そういえば、エリオとキャロの迎えは何時なんですか?」
「15時だ」
これからの予定について尋ねるリンの言葉を聞き、シグナムは簡潔に言葉を返す。
「15時ですか……まだだいぶ時間がありますね」
リンは時計を確認しながら話す……現在の時間は11:30であり、移動時間を考慮しても2時間近く余裕があった。
すると、シグナムは少し落ち着かない様子でリンに話しかける。
「あ、ああ、そうだな……まだ時間に余裕もあるし、どこかで昼食を取ろうか」
「あ、はい!」
実はシグナムがリンとの集合時間を、迎えの時間よりかなり早くしたのはそれが目的だったりもする。
「……その、騎士号を頂いたと聞いた。簡単だが祝いと言う事で……お前の好きなものを食べに行こう」
「ありがとうございます♪」
シグナムの言葉に嬉しそうな笑顔になるリン……やはりこの姉はリンには少し甘い様だった。
――地上本部――
地上本部の一角では、なのはとはやてが芝生でじゃれる二人の女性を見ていた。
「……あの二人は、まぁ入隊確定かな」
「だね」
本日行われた魔道師ランク試験で、優秀な実力は見せたものの、アクシデントや注意不足により再試験となった二人……スバルとティアナを見つめながらなのはは嬉しそうに微笑む。
「なのはちゃん、嬉しそうやね」
「二人共育てがいがありそうだし、時間かけてじっくり教えられるしね」
はやての言葉に頷いた後、なのはは思い出したように訪ねる。
「新規のフォワード候補は、後二人だっけ? そっちは?」
「二人共別世界。今、シグナムとリンが迎えに行ってるよ」
「そっか……じゃあ、リンの所属はもう決まったの?」
「うん……ようやくな。ライトニングに入れる事になったよ」
はやての言葉を聞き、なのはは考える様に顎に手を当てる。
「なるほど……ライトニングの二人は実戦経験が浅いし、経験豊富なリンに入って貰うって感じだね」
納得したように頷くなのは……しかし、はやてはその言葉を聞いて目線を逸らす。
「……いやぁ……その、じゃんけんでシグナムが勝ったから……」
「じゃんけん!? じゃ、じゃあリンの所属させる分隊を迷ってるって言ってたのは……」
困った様な表情で告げられた予想外の言葉を聞き、なのはは驚きに目を見開いて聞き返す。
そんななのはの反応を見て、はやては呆れた様に頭をかきながら言葉を発する。
「……単にヴィータとシグナムが取り合ってただけや。勿論、それぞれちゃんとした戦術的な理由は挙げてたけどな。まぁあの二人は、私達の中でも特にリンの事溺愛してるからなぁ……」
「な、なんか意外だね。ヴィータちゃんはともかくシグナムさんまで……」
「あの二人は特に戦闘面でリンに教える事が多かったせいやな」
「戦闘面?」
なのはの思い描くシグナムは少し厳しい印象がある人物であり、溺愛していると言う言葉が信じられずに聞き返すが、はやては軽くため息をついて微笑みながらその質問に答える。
「うん……私等は皆リンの事大切に思ってたからな、だからこそリンの指導は徹底的に厳しくしたつもりや」
「……大切だからこそ、命の危険がある戦闘の訓練は厳しく指導するってことだね」
はやての言葉を聞き、なのはは同意する様に頷く。
なのはも教導官として同様の想いを持っている為、その気持ちはよく分かった。
「……中でも、剣術と防御を教えてたシグナムとヴィータは、それこそリンに嫌われるのを覚悟でめちゃめちゃ厳しく教えてたんよ。けどリンはどんな厳しい訓練にも、泣き言一つ言わんとついてきて……それどころか自分の為を想って、厳しくしてくれてありがとうって、感謝してくれてな。それで二人は……私生活ではすっかりリンを溺愛するようになったんよ」
「にゃはは、なるほど……いい子だよね。リン」
「……うん」
なのはの言葉を聞き、やはりはやても弟の事は可愛いのか嬉しそうな表情で頷く。
そこでふと、なのはは思い出したように尋ねる。
「そういえば、リンって魔道師ランクはAだよね? ……しかもかなり強いって聞いたけど……リミッターは付けるの?」
「うん。一応1ランク分のリミッターを付けてもらうことにしたよ……まぁリンの場合あんまり関係なさそうやけど……」
「そうなの?」
「勿論、魔力による身体強化の割合が減るから、パワーとかスピードは大分落ちるけど……元々体格も小柄で、魔力量もそこまで膨大やないリンは、リーチやパワーの差を技術で補うタイプやからな」
はやての言葉通り、子供であり体格的に不利なリンは、そのハンデを技術とスピードで補う戦いを得意としていた。その為、リミッターを付けて魔力出力に制限がかかっても、そこまで大きな影響はない。
なのはもその言葉を聞いて、納得したように頷く。
「まぁ……なんにせよ、楽しみやな」
「……だね」
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