魔法少女リリカルなのはStrikerS〜双極の絆〜
□序章〜陸士訓練学校編
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プロローグ前編「少女の運命」(1/2)
――恵まれた少女が居た。
――少女には全てがあった。
――才能、家柄、容姿、少女は神に全てを与えられた。
――しかしそれでも……少女は……己が運命を呪った。
――新暦66年・4月――
――ミッドチルダ北部・第四陸士訓練校――
今期の新たな訓練戦を迎えた第四陸士訓練校。その廊下を一人の人物が歩いていた。
やや癖のある金髪のショートヘア、鋭いながらも美しい青い瞳の中性的な整った顔の少女……ルナ・フロンティアはその顔を不機嫌そうに歪めていた。
ルナはとても恵まれた人生を歩んできていた。
この世界において、現在最も大きな権力を持つ時空管理局。そこに勤める高官の娘として生まれ、未来の魔導師候補として何不自由なく育てられた。
才能にも恵まれ、若くして高い魔力を持ち飛行適性もAランクと……正に天才だった。
ルナ自身もそれに驕る事無く、両親や周囲の期待に応える為に努力を続け、10歳の頃には既にAAランク魔導師となんら遜色のない程の実力を身につけた。
……しかし、世の中……上には上が居た。
ルナが11歳になり、両親がルナを「最年少のAAランク魔導師」として管理局へ入局させようと考え始めた頃、二人の人物が現れた。
僅か9歳にしてAAAランクの力を持った鬼才……高町なのはとフェイト・テスタロッサの二人。
彗星の様に現れた二人の天才魔道師の噂は瞬く間に管理局中に広がった。
特にその二人の内の一人……高町なのはとルナは同じタイプの魔導師だった。
収束系魔法を得意とする事も、多彩な魔法を使いこなす中〜遠距離型の空戦魔導師と言う所も同じだった。
違っていたのは……高町なのはの方がルナより優れた才能を持っていると言う点だけ……
それから、ルナを取り巻く環境は大きく様変わりする事となった。
自身の家名を強める為、ルナを使いたかった彼女の両親は……事ある毎にルナとなのはを比べ、劣っている彼女を強く非難する様になった。
ルナもそれを覆そうと努力した……しかし、それから僅か半年後にもう一人……八神はやてが現れ、彼女の天才としての地位は失墜……遂には悪意を持って「劣化高町なのは」と呼ぶ者まで現れ始めた。
そしてルナは……その全てに反発した。
したたかに金を持ちだして実家を飛び出し、女である事も捨て……高町なのは達三人への劣等感から、空士では無く陸士として、女では無く男として生きることを決めた。
元々高い能力を持っていた彼女は、何の苦も無く陸士学校に入学し、今まさに陸士候補としての道を歩もうとしていた。
ただ、その表情はどこか諦めた様な……いや、強い劣等感を感じるものへと変わっていた。
訓練生たちに割り振られた寮……その内で自分に割り振られた部屋の前にたどり着いたルナは、自室の前で一人の青年の姿を目にする。
「……(ルームメイトかな?)」
陸士学校では基本的に二人一組で部屋分けされ、その二名が当面の間の仮のコンビとなる。
つまりルナの目の前にいる青年は、訓練生としてのルナの仮パートナーと言う訳だった。
「……(大きいし、ガタイもいい……前衛っぽいかな?)」
ルナは自分より30cm近く背の高い……180p位に見える青年を見て考え、少ししてその青年に声をかける。
「なに部屋の前でボサっとしてんだ? 入らないのか?」
「え!? あ、ど、どうも」
ルナの声を聞き、青年はようやく彼女に気付いて振り返る。
身長が高い割には何処か幼さの残る顔立ちの青年は、長い赤髪を揺らしながらルナにお辞儀をする。
「46号室の人ですよね? 初めまして! ディノ・イプサムです!」
「ああ、ルナ・フロンティアだ。まぁ、よろしくな」
「こ、こちらこそよろしくお願いします!」
「……んな固くなんなよ。仮とはいえ当分はパートナーなんだし、タメ口でいいよ」
緊張が見て取れる様子のディノに対し、ルナはやや面倒臭そうにぶっきらぼうな言葉を返す。
「……あ、うん」
「さて、とっとと入って着替えねぇと訓練に遅れるぞ」
ディノが頷いたのを確認してから、ルナは自室のドアを開いて中に入り、ディノもルナに続いて部屋の中に入ってくる。
大きな二段ベットと机があるだけの簡素な部屋に入った二人は、それぞれ荷物を置いて訓練着に着替え始める。
そしていざ着替え始めると、突然ディノが驚いた様に言葉を発する。
「え? あ、あれ? お、女の人?」
「あん? それがどうかしたのか?」
驚愕した様なディノの言葉を聞き、ルナは着替え途中の……下着姿のままでディノの方を振り返る。
そんな全く恥じらいもなにも無いルナを見て、ディノは混乱した様に尋ねる。
「い、いやだって……男物の制服を……」
「女が男の制服着ちゃいけないなんて決まりがあるのか?」
「え、え〜と……」
「俺が男だろうが女だろうが、てめぇには関係ねぇだろ? ほら、さっさと着替えて訓練所に行くぞ」
戸惑っているディノを一蹴し、ルナは何事も無かったかのように着替えを続ける。
その姿を困った様に見ていたディノも、少しして自分の着替えに戻ろうとすると……ルナが片付けようとしていた制服のポケットからペンダントらしきものが落ちるのが目に映った。
「っと……しまった」
落ちたペンダントは床で跳ねて二段ベットの下に転がり込み、ルナは頭をかきながらベットの下を覗き込む。
しかし、思ったより奥に転がってしまった様で……ルナが手を伸ばしてもなかなか届かない。
すると突然……二段ベットが宙に浮き上がり、ルナが入り込めるほどのスペースが出来た。
「……これで取れる?」
「ああ、悪いな助かっ――ッ!?」
後ろから聞こえたディノの声に軽く微笑んで答えたルナだが……直後になぜ二段ベットが浮いたのかが気になって振り向き、眼前の信じられない光景に目を見開く。
ルナの後方、振り向いた視線の先には……『二段ベットを片手で持ちあげている』ディノの姿があった。
「お、おま、な、なにを……」
「あれ? 見つからない?」
「じゃなくて! 何やってんだお前!?」
「……なにって……取りやすい様に……」
唖然とするルナの言葉に対して、ディノは不思議そうに首をかしげて答える。
ディノが現在片手で持ち上げているのは金属製の二段ベット……訓練校にあるものなので、当然の如くデザインを重視したものでは無く頑丈さとコストを重要にした物。その重量は推定200kgを超える。
「……(魔力での身体強化? いやそれにしても……)」
魔力による身体強化を利用すれば、確かに200kg超の重量でも持ち上げられる魔導師は存在する。
しかしそんな芸当が出来るのは、最低でもAランク以上のベルカ式魔導師……訓練学校にホイホイと存在するレベルでは無い。
「……(もしかしてこの人……すごい人?)」
目も前に居る少々間の抜けた表情をしているディノを、ルナは探る様に深刻な表情で見続けていた。
――訓練施設――
初めの訓練を前に用意されたデバイスの前に並ぶ訓練生達。
「では1番から順に訓練用デバイスを選択。ミッド式は片手杖か長杖。近代ベルカ式はポールアックスのみだ」
教官の言葉を聞き、訓練生達はそれぞれ自分の使うデバイスを選択していく。
そしてルナとディノの順番が来て、二人も置いてある訓練用デバイスの前に行く。
「ルナはミッド式? どっち使うの?」
「……こんな量産型のストレージなんて、何使っても変わんねぇよ」
何とかルナと会話をしようとするディノに対し、ルナはつまらなそうな表情で言葉を返す。
ハッキリ言ってしまえばルナにとって……陸士学校で学ぶような事は殆ど何もない。
魔導師としてのキャリアも、魔力運用技術も、他の訓練生とは比較にならない……本来なら数ヶ月の短縮コースで入局出来るだけの実力があった。
それなのにあえて、通常の1年間の訓練生として入学したのは……ひとえに両親への反発心からだった。
親の望む道とはあえて真逆の道に進むことで……自分を慰めているだけだった。
そんなルナの想いを知ってか知らずか、ディノは少し落ち込んだ様な表情で近代ベルカ式用のポールアックスに手を伸ばす。
「あっ!?」
しかし次の瞬間……ポールアックスは大きな音を立てて、ディノの握った部分から砕ける様に折れた。
「……なんだ? 不良品が混ざってたのか……これだから安物は……ほら」
「あ、う、うん……」
折れたポールアックスを茫然と眺めているディノに、ルナは新しい物を取って差し出してやる。
それを少し思案する様な顔で眺めた後、ディノは恐る恐ると言った感じに手を伸ばし……ポールアックスを握った瞬間……再びそれは折れた。
「……は?」
「ご、ごめん! 俺、力加減が苦手で……」
「……力……加減?」
まるで不良品では無く自分の握力でへし折ったと言いたげなディノの言葉を、ルナは信じられないと言った表情で眺める。
そんなルナの視線に晒され、ディノはバツが悪そうに俯いていた。
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