魔法少女リリカルなのはStrikerS X〜翡翠の太陽〜
□冥王の涙
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プロローグ
【注意】
この作品は魔法少女リリカルなのはStrikerS〜孤独の歌〜共通ルート最終話の続編です。
そちらを見ていないと分からない事が多いと思います。
それとこの作品はXの名を冠していますが、原作のXとは設定もストーリーも全くの別物です。
キャラと設定の一部を間借りしただけのオリジナルと言っても過言ではない程なので、閲覧の際は十分にご注意ください。
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――旧暦・ベルカ――
灰色の空に閉ざされ、黒い煙の立ち上る荒野に一人の少女が佇んでいた。
ルビーの様な赤く煌めく髪を首の後ろで一本に束ねたその少女は、翡翠色の瞳で灰色に染まった空をぼんやりと見つめていた。
その手には齢十を微かに過ぎた程度の小柄な体には不釣合な剣が握られており、赤黒く染まった刀身は周囲に転がる骸の山が彼女の戦果である事を物語る。
少女は――『王』だった。
幼きその身に意思が芽生えるよりも先に――『王』として人の上に立つ事を定められた。
未熟なその心が命の尊さを学ぶよりも先に――『王』として剣を振るう事を求められた。
潤いを帯びたその口が願いを紡ぐよりも先に――『王』として国を守る事を託された。
小さなその手が温もりを知るよりも先に――『王』として敵の温もりを奪う事を選ばされた。
そして戦いの虚しさを理解するよりも先に――彼女は『王』として死ぬ事を運命付けられていた。
そう、少女は『人』ではなく『王』であり――同時に『道具』だった。
少女に求められているのは国の頂点に立つ事ではなく、国の為に自信の全てを犠牲にする事……そしてそれは、少女自身誰よりも理解している事だった。
物心ついた瞬間から『王』である事を求められ、周囲に言われるがまま動き、戦い、傷つき、その身の在りかを戦場とした。
多くの者は当初少女の事を『傀儡の王』と呼んだが、少女の恐ろしい力と強さが広まるにつれその言葉は力を失い、人々は少女の煌めく赤い髪を炎に見立て畏怖の念を込めてこう呼んだ。
――『冥府の炎王』と――
しかしその様に映り変わる周囲の声に対して、当の少女は無関心と言ってよかった。
自分の国を大切に思わない訳ではなかったが、その想いを戦う理由とする程に国を愛していた訳ではない。
道具の様に扱われる事に不満は無い。なぜなら、自分は『王』だから……戦って国を守り、己の意思を犠牲にする事は自分が生まれる前から決まっていた運命なのだと、そう思っていた。
そして同時に、誰が始めたとも分からないこの数百年に渡る世界を巻き込んだ大戦争……それに自分が勝つ事は出来ないと言う事も分かっていた。
今この戦乱の世において最も大きくなを響かせる『聖王』と『覇王』……その両者は国に愛され、国を愛する『人』であり『王』……信念無き『王』である自分では、敵う事のない相手だとは理解していた。
しかしそれでも少女は剣を取って、勝機の無い戦いに臨まなければならない。それが、自分の国に生きる者達の望みだから……いや、むしろ少女が戦場で死に……歴代の王と同じ様に『忌わしき棺桶』に入る事こそが、周囲が真に求めている事なのかもしれない。
静寂に包まれていた荒野に怒号が響き、地平の彼方に現れた黒い軍勢が新たな戦いの始まりを告げる。
少女はその光景を目に捕らえた後、もう一度分厚い雲に覆われた空を見上げる。
長く続く戦いの弊害である空を覆い尽くす灰色の雲、その先には太陽と言う暖かな光で人々を照らすものが存在している事は知識として知っていたが、少女は一度もそれを見た事は無かった。
雲を突き抜ける程高く飛べば見る事は出来るだろうが、それをしようとは思わない。
血に汚れた自分にその暖かな光が注ぐことはあり得ないと思っていたから。
少女が軽く周囲を見渡し血まみれの剣を掲げると、それに呼応する様に転がっていた死体が仮初の命を得て立ち上がる。
少女の目から零れた優しい心の欠片が剣に落ち、微かにその赤を滲ませるが、その想いを使命で覆い隠し『冥府の炎王』は戦場へその身を躍らせる。
誰よりも優しい心と何よりもおぞましい力を持って生まれた少女の運命……それが大きく動き始めるのは、この戦いから数百年の時を越えた後だった……
――新暦79年・第148無人世界――
既に人が滅んだ無人世界の一角、かつて生きていた人が残したであろう遺跡の中では、激しい戦いの音が響く。
広い吹き抜けの空間の中に、宙を舞う複数の自立機械を相手取る青年の姿があった。
襟首まで伸ばした銀髪の青年は、両手に銃剣を構え宙を自由に舞う自立機械に苦戦しながらも見事な戦いを繰り広げていた。
自立機械から放たれるレーザーを最小限の動きで回避する身のこなしや、その体を覆う巨大な魔力から青年の高い実力が伺えた。
しかし自立機械の数は多く、流石に全ての攻撃をかわし切る事は難しかったのか青年の体のあちこちには小さな傷も見える。
銃剣から放った魔力弾で自身に向かっていた自立機械を撃ちおとした後、青年は周囲を見渡し、まだ時間がかかりそうな戦いに対し深い溜息を吐いた。
青年の名はコウタ・エルザード・ゲイズ……時空管理局に所属する若き執務官であり、同時に優秀な魔導師でもあった。
特に魔法文明等の調査能力においては右に並ぶ者はおらず、彼の名は考古学者や生物学者の間で非常に有名で、同時に高い評価を得ていた。
しかしその学界からの高い評価とは裏腹に、管理局内には彼の事を疑問視するものも少なくは無かった。
決して彼が魔導師として未熟なのではない。むしろその高い技量は誰もが認めていた。
ただ一点だけ、彼には妙な拘りがあり……それ故に彼はこう呼ばれていた『飛ばない執務官』と……
空戦技術は執務官になるための必須項目であり、当然の事ながら彼も飛行魔法を使用する事が出来る。
しかし彼はそれを使おうとはしない――公式的な記録では、執務官試験の当日以外飛ぼうとした事すらない。
現に今も宙を舞う自立機械に対し、両の足を地についたままで戦って苦戦をしていた。
苦戦しなくて良い戦いに苦戦し、負わなくて良い傷を負う彼の事を奇異の目で見る者も少なくは無かった。
――ミッドチルダ首都・クラナガン――
異世界での仕事を終え、ミッドチルダにある自宅に帰ってきたコウタは、包帯を巻いた腕で郵便物の有無を確かめる。
郵便受けの中には一通の封筒が入っており、彼はそれを持って家の中に入る。
疲れた体を癒す様にソファーに座り手にした封筒の中身を確認すると、中には綺麗な文字で大きく「AAA」と書かれた認定書が入っていた。
それは先日行われた魔導師ランク昇級試験の結果通知であり、記されたランクは彼の高い実力を称えるものだった。
しかしそれをコウタは別段喜ぶ事も無く……むしろどこか寂しそうな目で眺めた後で封筒の中に戻す。
そしてすっかり夜の闇に包まれた窓の外の景色を眺め、誰にでもなく独り言のように呟いた。
「……フェニックス」
かつてミッドチルダを震撼させたJS事件、今や伝説の舞台とも呼ばれる機動六課の一員としてJS事件を戦い抜いたコウタ。
機動六課解散から三年が経ち、コウタは着実に強く逞しく成長していた。
しかし、その背にはまだ……再会を誓った翡翠の翼は、帰ってきてはいなかった……
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というわけで、孤独の歌の正式な続編がスタートしました。
舞台はJS事件より三年後、執務官となったコウタと一人の少女、そして再会を誓った友との物語です。
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