魔法少女リリカルなのはStrikerS〜孤独の歌〜
□共通ルート七十一話〜八十話
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第七十一話「襲撃と死闘と矛盾と砕け散る想いI?」(1/2)
……
……
……
今、勝者なき殺し合いに決着が着く。
魔法少女リリカルなのはStrikerS〜孤独の歌〜始まります。
——地上本部・北エントランス——
「ッ!?」
「くっ!?」
一体何度目になるか分からない打ち合いをして互いに距離を取り睨み合う俺とチンク。
戦闘開始からそれなりの時間が経ち、致命傷こそない物の互いに酷い有様だった。
俺の体の至る所には火傷と爆発の破片による切り傷があり、ジェミニにも多数のヒビが入っている。
チンクの体も処々にそれなりに大きな傷があり、防護服やコートが血に染まっている個所も多い。
互いに致命傷以外は回避していない事もあり、血だらけといっていい様相だった……
当初二人とも早期決戦を望んで始めた殺し合いだったはずだが、その思いとは裏腹に戦いは拮抗していた。
恐らく単純な戦闘能力ならチンクの方が俺よりも上だろう。しかし俺は目と極限まで研ぎ澄まされた神経のおかげか、チンクの空中にナイフを出現させる技をほぼ完璧に察知する事が出来ていた……正直今の状態なら、どの方向に現れるのかはもちろん、何本現れるかまで分かる様な気がした。
結果的にチンクは俺に対して直線的なナイフ投げか近接戦闘で攻めるしか無く、そうなると速度で上回る俺に対して決定的な攻撃を入れる事が出来ずにいた。
しかし俺の方もチンクの固い防壁を突破する事が出来る手段が少なく、攻めあぐねている状態だった。
ニードルバレットは防壁を破る事は出来ても弾のサイズのせいもあり回避されやすく、大きなダメージとなる部分には当てれていなかった。
お互いに相手を倒す手段はもう分かっている。チンクは何とか俺の足を止め、空中にナイフを設置する技を俺に直撃させる事が出来れば俺に防御し切る手段は無い。俺の方はなんとか隙を見つけ、ヴァニティバレットを生成して当てられれば防壁ごとチンクを粉砕できるはずだった。
お互いにそれが分かっているからこそそうはさせまいと動き、結果として俺達の戦いは長引き互いに小さな傷が増えていく。
……正直これ以上時間をかけていられない。俺の魔力による止血も恐らくそろそろ切れるだろうし、スバルの傷の状態も気にかかる。
そう考えた俺は、ある提案をする為に目の前のチンクに向って声をかける。
「なぁ……チンク」
「……なんだ?」
武器は構えたまま、警戒は怠らずに俺に答えるチンク。
「お互いこれ以上時間はかけてられないだろ? ……一撃で決めないか?」
「……互いの最強の技をぶつけ合うと言う訳か……奇遇だな、私も丁度それを提案しようと考えていたところだ」
詳細な事を伝えなくとも俺の言いたい事を察知し了承するチンク、俺達は互いに頷き決着を付ける一撃の準備に入る。
俺はヒビだらけのジェミニを見て、静かに呟く様に声をかける。
「……ジェミニ、ごめんな……」
カートリッジも殆ど撃ち尽くし、魔力もかなり使ってしまった俺に残された最大の攻撃……それはブラスターシステムを利用した一撃以外に無い。
……分かっていた。今のジェミニの破損状態でブラスターシステムを使えばどうなるかは……
≪謝らないでください。むしろ、私を気遣って加減なんてしたら……私はマスターを一生許しません≫
「……ああ」
静かな口調で答えたジェミニに頷く俺……どの道システムの仕様上、加減なんて出来ないんだがな……
「……ブラスターシステム起動」
≪……了解。第一、第二プロテクト解除……ブラスターシステム、起動します≫
ジェミニの言葉が聞こえた瞬間、俺の体の中に残ったすべての魔力が俺の周囲に無理やり引き出され、足元をへこませる。
「ぐぅっ!?」
無理やり引き出された目を使わなくても視認できるほど膨大な魔力が暴れ回り、体に引き裂かれる様な激痛が走る。
引き出された魔力に体が耐えきれず、体の至る所から出血し始める。
それに歯を喰いしばって耐えながら、俺は双銃剣の両先端に膨大な魔力を収束し、二つのヴァニティバレットを生成し始める。
ジェミニに登録されている魔法の中で最大の威力を誇るのは、俺自身が維持、圧縮できる限界まで魔力を集める魔法……コンプレスノヴァだが、正直あの魔法は一度も撃てたことが無く。今の残り魔力で生成できるかも怪しかった為、現状俺の使用可能な最大の魔法はヴァニティバレットだった。
そのヴァニティバレットを通常とは違い、二つ同時に生成を行う。
魔力が両腕に集まって行く過程で、膨大な魔力により腕の至る所から血が噴き出し、ジェミニのヒビもどんどん大きくなる。
そして……ヴァニティバレットが生成され、チンクの方を向くと……チンクの周囲には恐ろしい数のナイフが浮かんでおり、あちらも準備は整っているようだった。
腕を交差させたチンクが一歩踏み出すのと同時に俺もジェミニを構え、互いに全く同じタイミングで必殺の一撃を発射した。
「ヴァニティ……バレット!!」
≪ッ!?≫
俺が引き金を引きヴァニティバレットが発射されるのと同時に、ジェミニは先端から真ん中辺りまで粉々に砕けコアにも大きなヒビが入り、機能が強制停止する。
その様子がまるでスローモーションのように見え、俺の放った二つのヴァニティバレットとチンクの放った大量のナイフが二人の間で衝突し、巨大な爆発が起こる。
それにより発生した凄まじい爆風により、俺の体はなす術無く後方に吹き飛ばされ壁に強く叩きつけられる。
「ぐぁっ!?」
壁に大きなへこみが出来る程の勢いで叩きつけられ、そのまま地面に落下する俺。
恐ろしいほどの速度で叩きつけられたせいか、体には痛みどころかあちこちの感覚が無く。自分の体なのかどうかも怪しいような状態だった。
爆煙が晴れると……そこには同じように壁に叩きつけられてうつ伏せに倒れるチンクの姿が見えた。
……しかし、次の瞬間俺は驚愕して目を見開く。
「……ぐっ、ぅ……」
……信じられない。まだ、立つのか……
驚愕する俺の視界の先では、チンクが壁に手を付き震える体を無理やり起き上がらせていた。
そして、チンクの目が俺の方を見て驚愕しているのは……俺もチンクと同じように立ちあがっているからだろう……
お互いに壁に手を付き、限界が近い体を支えながら睨み合う。
……どうする? もう魔力は空っぽ、体も左腕と右足の感覚が無くまともに動くかすら怪しい。
おそらくチンクも似たような状態だろう……もう互いに戦える力は残っていない。
それに、この状態ではギンガさんとスバルを助けに行くのは……
「……コウタ……今度は……私の方から……提案があるんだが……」
「……うん……なに……かな?」
チンクが息も絶え絶えといった様子で話しかけてきて、俺も気を抜けば意識が飛びそうな状態で返事をする。
「……お互い……この状態では……当初の目的は……達成できないだろう……ここは……退かないか?」
「……奇遇だね……俺も……丁度……同じ事を……考えてた……」
提案を了承すると、チンクは壁に手を付いたまま体を引きずる様に動かし、俺のいる場所とは反対の通路に向かい始める。
そして通路に差し掛かった辺りで俺の方を振り返り、静かに俺を睨みながら言葉を発する。
「……私は……こんな決着……納得できない……日を改めて……互いに万全の状態で……」
「……ああ……その時は……最初から一対一で……決着を着けよう……」
互いに睨み合いながら、俺とチンクの目には悔しさがあった。チンクは妹達の救助を、俺はギンガさんとスバルの安全を……お互いに己の目的を運に任せるしかない状態になったことが……悔しかった。
そのままチンクが通路に消えるのを見た後、俺も動かない右足を引きずりながら壁に手を付き歩き始める。
……ギンガさんとスバルの状態を確認しないと……
その気持ちだけが、限界といっていい体を無理やり動かしていた……
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