魔法少女リリカルなのはStrikerS〜孤独の歌〜

□共通ルート六十一話〜七十話
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第六十一話「家族と恐怖と震える心?」(1/2)






束の間の平穏な日々を過ごす俺達……

複雑に交差するそれぞれの思惑……

……

そして間もなく、破滅への扉が開こうとしていた。



魔法少女リリカルなのはStrikerS〜孤独の歌〜始まります。











——ミッドチルダ・首都クラナガン——


豪勢な料理が並ぶ料亭の一室。現在、俺はレジアスさんとオーリスさんに誘われて食事に来ていた。

公開意見陳述会の警備を明日に控え、八神部隊長から前線メンバーは全員休暇が与えられていた。明日の警護任務の前に体を休めておくようにということだったが……どうにも怪しい。

八神部隊長の話では、明日の公開意見陳述会が狙われると言うある程度有力な情報提供があったらしいが……わざわざ前日に休み、そしてデバイスの出力リミッターの完全解除。まるで明日確実に襲撃がある様な準備の仕方だ。

そんな事を考えていると、目の前に座っているレジアスさんが考えるように話しかけてくる。

「そうか……八神はメガーヌの娘を説得するつもりか……」

「おそらくは……それ以外に、前線に詳細を伝える理由が無いですし」

レジアスさんの言葉に、俺も考えるように頷きながら返事をする。

昨日八神部隊長から前線メンバーに公開されたデータ。恐らくレジアスさんにゼストさんが渡したものだと思われるそれには、戦闘機人のある程度の戦闘データとISと呼ばれる固有技能が記録されていた。

そして、ルーテシアがレリックを求める訳も八神部隊長から直々に説明があった。戦う相手を知っておくべきと言ってはいたが、恐らく俺達に上手く説得させるつもりなんだろう。実際その後にあったフォワード陣の話し合いでも、ルーテシア達を遭遇した場合は説得を試みるという方向性に落ち着いていた。

「けれど……目的は何かしら? 単純に力を示すだけとは考えにくいわよね」

「このタイミングでの襲撃。深読みするなら……指揮系統を混乱させ、後にある大きな一手への布石とも考えられるな」

深刻そうな表情で話すオーリスさんに、顎に手を当てて答えるレジアスさん。

その話に俺も加わり、そのまましばらく地上本部を襲撃することで相手が得る利点を話しあう。








2時間ほど話を続け、食事は間もなく終わりろうとしていた頃。一旦話を締めくくったレジアスさんが、真剣そうな……それでいてどこか穏やかな表情で俺の方を向く。

「ところでコウタ。話しは大きく変わるんだが、少しいいか?」

「え? あ、はい」

レジアスさんの言葉に姿勢を正す俺。

「こんなタイミングでする話ではないかもしれんが……これから話す事はあくまで提案として聞いてくれ。選ぶ権利はお前にあるし、答えを急かすつもりもない」

「は、はぁ……」

レジアスさんにしては珍しく、なんだか言葉を選ぶような話し方……なんだろう?

いつもとは少し違うレジアスさんの様子に首をかしげる俺。そんな俺の様子を見て、レジアスさんは微笑みながら言葉を発する。


「コウタ……ワシの、養子になる気はないか?」

「!?!?」

レジアスさんのまるで予想していなかった提案に、茫然と固まる俺。

……養子? 俺がレジアスさんの……家族になるって言う事だよな?

「私もお父さんも、貴方の事は本当の家族の様に思っているわ。養子縁組なんて、形式的な物ではあるけどね。貴方さえ良ければ、私達の家族になって貰えないかしら?」

茫然としている俺に、微笑みながら話すオーリスさん。

しかし俺の頭の中は、ぐちゃぐちゃで全然思考が定まらない。

「……すみません。考えた事が無かったお話なので……その、時間を頂きたいと思いまして」

頭をなかで必死に考えを纏めようとしていると、勝手に俺の口が開き言葉を告げる。

……あれ? 何言ってるんだ俺……

考えるまでもないだろ? 凄くいい話なんじゃないのか?

「ああ、ワシらも急かす気はない。お前にとって大きな問題だからな。じっくり考えてみて、ワシらの家族になってもいいと思ったら受けてくれればいい。お前がどういう風な選択をしたとしても、ワシらの態度が変わったりはせんから……気にせず。ゆっくり考えてくれ」

「はい、ありがとうございます」

だから、なんで……勝手に喋るんだよ。俺の口……

自分が何を話しているかもロクに理解できない思考とは裏腹に、顔は笑顔で口はひとりでに話を進める。

結局そのまま、思考が一切落ち着かないままで話は進み。食事はお開きとなり、俺はレジアスさんとオーリスさんと別れて帰路につく。










六課へ向かい、フラフラと体を揺らしながら歩く俺。レジアスさん達と別れた後も、俺の頭の中はずっと混乱したままだった。

なんで? 

あんな風に言ったんだ……本当はずっと前から……表面上はどう思っても望んでたはずじゃなかったのか?

レジアスさん達が家族だったらって、何度も考えた事があったんじゃないのか?

なんで? なんで?

表面上はどう思っても、本当はずっと欲しかったんじゃないのか?

もし家族がいれば……そんな風に考えたのは一度や二度じゃなかっただろ?

なんで? なんで? なんで?

俺の体はこんなに震えてるんだ?

ずっと欲しかった物が……欲しくても自分には手に入らないと思って諦めてた物が……

……目の前に差し出された瞬間……怖くなって……逃げ出した……

なんだよ……何なんだよ俺は!! 一体……何をどうしたいんだ……

頭の中で答えの出ない疑問を繰り返しながら、俺はゆっくりと機動六課の寮に向う。












——六課・寮——


寮にたどり着き、茫然と廊下を歩いていると……目の前からフェイトさんが歩いてくる。

「あ、コウタ。おかえ——ッ!?」

フェイトさんは俺を見て声をかけようとしたんだろうが、その言葉が途中で止まり驚いた様な顔になる。

「だ、大丈夫!? 凄く……辛そうな顔してるよ」

「……」

慌てた様子で声をかけてくるフェイトさんに、頭の中がぐちゃぐちゃで何も答えられない俺。

「何かあったの? もし私で力になれるなら——「……らないです」——え?」

「……分からないんです……」

本当に俺を心配してくれてるフェイトさんの表情を見て、自然と言葉がこぼれた。

自分でも何を言おうとしてるのかは分からなかったが……助けて欲しかった。訳の変わらないまま、何かに押し潰されそうなこの状況から……

「……はは、俺はいったい……どうしたいんですかね……どうすればいいんですかね……フェイトさん、俺……俺は……俺が、分からない!」

「……コウタ」

途切れ途切れに、自分でも言葉に出来ない感情を少しだけ話す。

教えて欲しかった。どうすればいいのか、何をすればいいのか……欲しがるくせに受け取れない。求めるくせに掴めない……このどうしようもなく矛盾した感情をどうすればいいか、教えて欲しかった。

フェイトさんは少し黙ったまま俺の様子を見た後、俺の頭を抱える様に抱きしめてくれた。

「……え?」

「コウタ……何に対してかは分からないけど……コウタが今、凄く辛い事は私にも分かるよ」

俺の頭を撫でながら、まるで諭すようにゆっくりと話すフェイトさん。

「言いたくないなら言わなくてもいいよ……もし、辛いなら……戦わなくたっていいよ」

「……フェイトさん……」

優しいフェイトさんの言葉に、俺の心の奥からずっと隠れていた何かが表に出そうになる。

「辛いなら、苦しいなら……逃げたっていいんだよ? その時は……私が守ってあげるから……」

「ッ!?」

だけど、口から何か言葉が出ようとした瞬間。頭中に昔の思い出がフラッシュバックする。



……涙を流して言い訳を並べる銀髪の女性……


……優しい笑顔で手を差し伸べてくるオレンジ髪の男性……


……人懐っこい笑顔を向ける青髪の少女……



気が付いた時には、フェイトさんを突き飛ばしていた。

「……コウ……タ?」

「う、あ……ご、ごめんなさい!」

慌ててフェイトさんに頭を下げて謝罪する俺の心の中では、一つの感情が全てを支配していた。

……それは、心を埋め尽くす恐怖だった……

目の前に差し出された見返りを求めない……心の底から望む優しい手。それが、怖くて怖くてたまらなかった。

「ホントすみません。俺、少し疲れてたみたいで……変な事言ってしまって……あの、怪我とかありませんか?」

「う、うん私は平気だけど……その、大丈夫?」

さっきまでとは打って変わり、不自然な程に明るい声で話す俺。フェイトさんは、依然俺を心配そうな目で見ていた。

「はい、もう大丈夫です! あ、それじゃあ明日も早いので俺はもう部屋に戻って寝ますね。おやすみなさい!」

「あっ、コウタ!」

何かを言おうとするフェイトさんを無視して、その場から逃げるように走り去る。





一直線に自分の部屋まで行き、明りをつけないまま部屋の隅で膝を抱えるように座り込む。

膝を抱える手も、薄暗い部屋を見る目も、震えていた。

求めたのは俺のはずだった……家族も、救いも……

だけど、求めたそれが……優しく差し伸べられる手が……目も前に現れた瞬間……体が全力で拒絶する。

差し伸べられた手を取ろうと手を伸ばせば、それが消えてしまうと……

期待を、希望を抱けば裏切られると……逃げ出せと、心が強く告げる。



怖い、怖い、怖い……



自分に向けられる優しさが……



俺の望みを叶えてくれようとする人達が……



…………怖くて…………しょうがなかった…………



そのまま俺は一睡もする事が出来ないまま、部屋の隅で一晩中震え続けた。
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