魔法少女リリカルなのはStrikerS〜孤独の歌〜
□共通ルート四十一話〜五十話
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第四十一話「過去と出会いと現在A?」(1/2)
懐かしい人との思い出……
謝れなかった後悔と、もう会えない悲しみ……
……
そんな俺の心が、一つの事件を起こすことになった。
魔法少女リリカルなのはStrikerS〜孤独の歌〜始まります。
——新暦72年(3年前)——
——ミッドチルダ・地上本部——
「ティーダ・ランスターに言った言葉を、取り消せ!」
地上本部の一室、とあるオフィスで目の前に座る中年の男性……首都警備隊の三佐に向かって俺は声を荒げていた。
周りにいる他の局員は、状況が飲み込めないようでざわついている。
ティアから一月前に聞いた、ティーダさんの葬式の話……表面上は平静に聞いたつもりだったけど……怒りに震えた。
訓練校に入学して半年……大切な友達になったティアの悲しそうな顔……許せなった。
それから一月で情報をあさり、当時ティーダさんを無能と呼んだ上司がどこにいるかを調べた。
当時も少し問題視されたようで情報はそれなりに早く見つかった。
……ティーダさんの葬式の後で、その上司は所属を首都航空隊から、首都警備隊へと移していた……だが、それだけだ。
問題にはなったものの、発言だけでは大きな処分があったわけでもなく、その男は所属を移しただけで、階級も変化なければ……発言の撤回もしていなかった。
それを知った俺は、今現在地上本部に無許可で来ていた。ティーダさんを悪く言った事を許せなかったものある……だけどなにより、ティアをあんな悲しそうな顔にした目の前の男が許せなかった。
今さら俺が何を言ったところで、ティアの悲しい思い出がなくなるわけじゃない、でもせめて発言の撤回だけでもさせようと思い、半ば殴りこみに近い形でこの場に来た。
だが、目の前の男は何も悪びれる様子なく告げる。
「ティーダ?……ああ、あの無能か……」
「!?」
「……大方、あの無能の妹の差し金か何かだろうが、役立たずを役立たずと言って何が悪い!」
「!?!?」
「まぁ、兄の無能ぶりを知ることになったあの妹の気持ちも少しは分かる——がっ!?」
……それ以上聞く気はなかった。
ティアの気持ちが分かるなんて言いかけた男を、全力で殴り飛ばす。
そのまま、椅子から落ち地面に倒れた男の胸倉を掴み、その顔面に続けて拳を撃ちこむ!
目の前の男の左手の薬指には指輪があった……コイツにも家族が居るんだろう……だったら、コイツは家族のいない俺よりも、ティアの気持ちを理解出来るのか?理解した上であんな言葉を言ったのか?……許せない。
「ッ!?」
三発目を入れようとして、駆け付けた他の局員に両手と両肩を掴まれ、地面にうつ伏せに倒される。
それでも止まる気はなく、顔だけを目の前の男に向け叫ぶ。
「お前に!アイツの……ティアの気持ちの何が分かるんだ!!」
俺の叫びに、倒れていた男は顔を抑えながら立ち上がり、抑え込まれた俺を怒りのこもった眼で睨みつける。
そしてそのまま怒りのままに、俺の顔を殴ろうと拳を振り上げる……目をそらす気はなかった。
「キサマ!?よくも——「やめんか!この馬鹿者が!!」——!?」
「!?」
男が俺を殴ろうとした瞬間、空気が震えるような怒声が響き渡り、辺りが一瞬静寂に包まれる。
地面に抑え込まれたままの俺には、誰の声かは分からなかったが、目の前の男は先程まで怒りで赤くしていた顔を真っ青にしている。
「れ、レジアス閣下……い、いらしてたんですか……」
……レジアス閣下?……それってまさか……
足音が聞こえ、俺と男の間に大柄な中年の男性が立つ。
レジアス・ゲイズ中将……俺でも知っているような地上本部の超大物だ。
そんな人がなんで……?
「……状況を説明しろ」
レジアス中将は、俺を一度見た後で、威圧感のある声で男に告げる。
「は、はい……そのガ……少年が、と、突然殴りこんでまいりまして」
「……そうか」
男は青い顔のまま、慌てて口を開き、その言葉を聞いたレジアス中将は俺の方を向き、目線を合わせるようにしゃがんで聞いてきた。
「君は、なぜこんなことをしたんだ?」
「れ、レジアス閣下。ただの下らない逆恨みでして、閣下のお手を煩わせるような……」
「ワシは今、この子に聞いている……黙っていろ!」
「!?……は、はい」
慌てて質問を止めようとした男を一括し、レジアス中将は再び俺の方を向く。
「……ティーダ・ランスターさんへ言った言葉を取り消させようと……」
「ティーダ・ランスター?」
「ティーダ・ランスター……首都航空隊一等空尉で、3年前に逃走中の違法魔道師と交戦し、殉職した魔道師の様です」
聞き返したレジアス中将の言葉に答えるように、別の声が聞こえ、茶髪でメガネをかけた女性が端末を操作しながら歩いてくる。
「ふむ……よし、詳しく話を聞こう。離してやれ」
女性の言葉に、少し考えてからレジアス中将は告げる。
「し、しかし……」
「……二度言う気はないぞ」
「は、はい!」
レジアス中将の言葉で、俺を抑え込んでいた局員が離れ、俺は自由になり立ち上がる。
「ついて来なさい」
「……は、はい」
歩きだしたレジアス中将と女性に続いて、俺もオフィスを出る……どうなるんだろう俺?佐官を殴ったわけだし、タダで済むとは思えないな……後悔する気はないけど……
——地上本部・執務室——
……なんでこうなった?
俺は、犯罪行為をしたはずだ……うん、そこは間違いない。
取調室に連れて行かれるのだとばかり思って、レジアス中将に付いてきた俺だが、今はレジアス中将の執務室で紅茶を御馳走になっていた……なんで?
紅茶を飲みながら、まるで雑談でもするように今回の経緯を聞かれ、俺はそれを詳しく説明する。
「……そうか、そんな事が……」
俺の言葉にレジアス中将は、忌々しげに顔を変え、ティーダさんに対する問題発言を知らなかった事を告げる。
……別に不思議な話じゃない。というか、当たり前だ。
ティーダさんへの、あの男の発言はモラルの問題であって深く罪に問われるようなものじゃない。レジアス中将程の地位の人に詳細が伝わるわけがない。
その上、首都航空隊は空戦部隊で、レジアス中将の管轄とは少し違う……知らなくても当然だ。
そしてレジアス中将は、少し考えた後立ち上がり、俺に頭を下げ……えぇ!?!?
「すまなかった!ワシの監督が行き届いていないばかりに、君にもそのティアナと言う子にも、不快な思いをさせてしまった」
「は?え、いいいえ、その」
ちょっと待て、中将だぞ……めちゃくちゃ偉い人なんだぞ?
その人が、ただの一訓練生の俺に頭を下げてる!?いやいや、あり得ないだろ……
地上本部の中将が、訓練生の俺に頭を下げるという、あまりにも異様な事態に頭が付いていかない俺。
レジアス中将は頭を下げたままで、言葉を続ける。
「市民を守るために勇敢に戦い、無念にも殉職した同志を侮辱するなど、あってはならない事だ。そしてそれは、その事を預かり知らなかったワシにも責任がある」
「あ、あの……どうか、頭を上げてください……その、俺に謝られても……」
あの男の発言で傷ついたのはティアだ……俺じゃない。
俺の言葉にレジアス中将は頭を上げて話す。
「そうだな……ティアナという子には、後日改めてワシの方から謝罪をさせてもらおう」
……なんというか、凄い立派な人だ……こういうのが、上に立つ人間ってやつなのかな?
「……さて、コウタ君。少しいいかしら?」
「あ、はい」
レジアス中将が席に座りなおした後、茶髪のメガネをかけた女性……オーリス・ゲイズ三佐に話しかけられる。
「事情は理解したし、相手に非があったわけだけど……地上本部で暴力行為を行った貴方を、このまま無罪放免という訳にはいかないの」
「はい……当然だと思います。覚悟も出来ています」
オーリス三佐の言葉に答える俺……当たり前だ、どんな理由があったって俺がやった事は犯罪行為なんだし、処分を受ける覚悟は初めからしている。
レジアス中将が、ティアに謝罪の約束をしてくれただけで……十二分に報われている。
「うん……処分は追って訓練校経由で連絡するわ。だから今日の所は、このまま帰ってもらって大丈夫よ」
「……わかりました。ありがとうございます」
オーリス三佐の言葉に答え、二人に十分にお礼を言った後、俺は頭を下げ地上本部を後にした。
コウタが部屋から去った後、オーリスは呟くようにレジアスに話しかける。
「……今時、珍しい子ね」
「……ああ、大切な誰かの為に、自分に出来る事をがむしゃらにやる……久しく忘れていたな」
オーリスの言葉にレジアスは微笑みながら話す。
「しかし、あれだけの騒ぎになったんですし、変な恨みを買わないか心配ね」
「な〜に、そんな事はワシが絶対にさせんよ」
「ふふふ、お父さん。あの子の事気に入ったみたいね?」
「……ああ、これからの局に必要なのは、あの子のように……本当に誰かを想って行動できる人材だ」
「その行動が、少し強硬すぎる気もするけどね……」
二人は嬉しそうな顔で、先程出会ったコウタについて話す。
そして、レジアスは一度目を閉じて再び開き、ゆっくりと立ち上がる。
「さて、少し話をしに行くとしよう……どうやら、首都警備隊には人の上に立つべきではない人物が居るらしいからな……」
レジアスは静かに怒りに満ちた目で、部屋を後にする。
それから数日後、首都警備隊の三佐が左遷される事となった。
——数日後——
——第四陸士訓練校——
訓練校にあるモニターの前には人だかりができていて、モニターにはこう表示されていた。
【コウタ・エルザードを、暴力行為により2週間、地上本部での無償奉公とする】
「コウタ……今度は何やったの?」
「……見ての通り暴力事件だけど?」
スバルの言葉にコウタは興味なさげに答える。
「アンタはどうしてこう毎度毎度、加減を知らないのかしら……」
「……あはは、じゃあ俺は地上本部に行ってくるわ」
呆れ顔で言うティアナに、苦笑しながら話し、コウタは歩き始める。
「コウタ!3週間後はテストなんだから、自主練はしときなさいよ!」
「……はいはい」
ティアナの言葉に手を振って応えて、コウタは去っていく。
それを見送りながら、スバルは呟くように言う。
「……絶対又、私かティアのなにかだよね……」
「そうね……けど、今回の罰が今までで一番重いわね。何やったのかしらアイツ……」
「又、講義のノートとっておかないとね」
「そうね……いつも通り、戦術・魔法関係は私が取るから、それ以外頼んだわよ」
「うん!」
二人は慣れた様子で呆れたように話すが、その顔はどこか嬉しげだった。
——ミッドチルダ・地上本部——
俺は今、地上本部の正面の掃除を行っていた。
奉公活動といっても、訓練生にすぎない俺が書類的な手伝いができるわけでもなく、清掃や雑用を行っていた。
……広いな地上本部。これ期間中に全部掃除できるのかなぁ?
そんな事を考えながら掃除を続けていると、声をかけられる。
「やあ、君が噂の佐官キラーだね」
振り返ると緑の長い髪の男性が笑いながらこちらに歩いてきていた。
「……貴方は?」
「僕は、ヴェロッサ・アコース……まぁしがない通りすがりの査察官だよ」
……そんな制服だったけ?査察官って……てか、噂の〜って言ってるし……通りすがりじゃなくないか?
「コウタ・エルザードです。初めましてアコース査察官」
「ヴェロッサでいいよ」
「では、ヴェロッサさん……何かご用でしょうか?」
査察官が俺に話しかけてくる理由が分からなかったので、尋ねてみる。
ヴェロッサさんは笑いながらそれに答えた。
「はは、いや噂を聞いて少し興味がわいてね。それで会いに来てみただけだよ……まぁ、よろしくね」
笑顔で手を差し出して、握手を求めてくるヴェロッサさん。
俺はそれにこたえようとして、
「こちらこそよろしくお願い——ッ!?」
手を取ろうとした瞬間、ものすごく嫌な感じがして、慌てて手を引き距離をとってヴェロッサさんを睨みつける。
「ど、どうかしたのかい?」
ヴェロッサさんは驚いたように俺に声をかける……嫌な感じはもうなくなっていた。
「あ、いえ……すみません」
謝罪をしてから、手をとり握手をする……何だったんださっきのは?
「それじゃ、仕事の邪魔をしても悪いし、僕はこれで失礼するよ」
「あ、はい。あまりお構いできずに申し訳ないです」
「気にしないで、期間は2週間だったよね?又、遊びに来るよ」
……遊びに来ていいのか?査察官……
手を振り地上本部に入っていくヴェロッサさん。
「(あの子……僕の思考捜査に気が付いた?……興味深いね)」
なんというか、掴みどころのない人だったな……変に嫌な感じはしたけど……
っと、掃除続けないと……
→
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