魔法少女リリカルなのはStrikerS〜孤独の歌〜

□共通ルート一話〜十話
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第一話「人生30年?」





小さな蛍光灯一つの薄暗い更衣室で、ボロボロの作業着から、薄汚れた私服へ着替えた俺は、タイムカードを押してドアに手をかける。

「……お疲れ様でした」

返事など期待はせず、ただ一連の流れで言葉を発してそのまま会社を後にする。

時間はそれなりに遅かったが、世間では今日は休日なこともあり、街灯で照らされる都会の街は、多くの人で賑わっていた。

騒がしい周囲の音を聞きながら、ポケットから煙草を取り出して火を付ける。煙草の煙をゆっくりと吸いながら、人ごみから少し外れ歩く……ふと、ショーウィンドウに映った自分の顔に目がとまった……酷い顔だ。

光りのない目、ボロボロの髪、汚れだらけの顔……そんな自分の姿を眺めながら……少し、考える。

生まれてそろそろ30年、俺はいったい何をしているんだろうか?

物心つく前に捨てられ、虐待を受けながら育った孤児院を出て、会社に勤めるようになってもう14年……

『おはようございます』『お疲れ様でした』『申し訳ありません』『分かりました』この四つ以外の言葉を発する機会なんて殆どない……誰ともロクに話さず、何も変わらない毎日……

家族……は初めからいなかった、友達……は作らなかったのか作れなかったのか、まぁ存在した覚えはない。

朝起きて、仕事に行って、帰って寝る……ただそれを繰り返すだけの毎日。

別に仕事が好きなわけじゃない……働かないと生きていけないから働くだけ……あれ、じゃあ俺はそもそも何のために生きてるんだろう?

趣味なんてものもないし、こうなりたいという夢もなく、行動の指針になる様な目標もない。ロクに意思など持たずに同じことを繰り返すだけ……まるでロボットみたいだ。

『死は孤独であるかもしれない。しかし、生きているほど孤独であるはずがない』ってのは、誰の言葉だったか?

……上手い事を言うもんだ。生きているから余計な事を考えて、生きているから一人であることを実感する……うん、死のう……そうすればもう、こんな下らない事で悩まなくて済む……

でも、どうやって死のう?出来ることなら楽に死にたい、苦しんだりせずに一瞬で……

頭の中で楽に死ぬ方法を考えながら歩いていると、ふと目の前の横断歩道に少女が見える、信号は……赤い色で、馬鹿みたいなスピードで車が走ってきていた。

俺の体は、まるでそれを待ち望んでいたかの様に、考えるよりも速く動いて、少女を車の前から突き飛ばした。

眼前にゆっくりとスローモーションのように迫る車、まるで俺が決意するのを待っていてくれたかのようなタイミングに、少し嬉しくなる……このスピードなら、痛みを感じる暇もないだろう。

そして、頭の中では……走馬灯というものだろうか、過去の記憶がフラッシュバックする……あれ?これ背景が違うだけで、どの記憶もあんま変わんねえぞ?俺が一人で映ってるだけじゃないか……

そんな人生を振り返りながら、俺はゆっくり微笑んだ……これで、楽になれる。


こうして俺のくだらない人生は、不思議な事に最後は笑顔で幕を下ろした。







……はず……だったんだけど……
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