次回作下書き

□四度目の人生下書き
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――ミッドチルダ・廃棄都市区画――


男の子に連れられて辿り着いたのは、廃棄されたビル群が立ち並ぶ場所。管理局がよく魔導師試験に利用する立ち入り禁止区画でした。

「……俺は局員じゃないけど、知り合いが居てね。ちょっと無理言って使わせてもらう事にした。まさか、公園で魔法戦を始める訳にもいかないしね」

「別にどこであろうと結果は同じですし構いませんよ。さあ、手早く始めましょう。デバイスを展開してください。まさか、持ってない訳では無いのでしょう?」

公園で露店をしている様な子が廃棄都市区画を貸し切れるコネクションを持っているのには少し驚きましたが、大方管理局勤めの親に頼んだか何かでしょうし、私が勝つという結果が変わる訳では無いので問題はありません。

2本の短剣型デバイスを展開して告げる私の言葉を聞き、男の子は軽く笑みを浮かべた後で言葉を返してくる。

「……デバイス? 甘やかされて育って思い上がった訓練生未満の子供を叱りつけるのに、そんなものを使う気は無いよ」

「ッ!? どこまでも……舐めた態度を……後悔しますよ」

どうやら、少し痛めつける位では手ぬるい様ですね。二度と私に歯向かう気が起きない程に叩き伏せてあげましょう。

余裕な態度で立つ男の子に私は我慢の限界を超えるのを感じながら、体を低くして構え……数秒の後に強く地面を踏み込む。

「フラッシュムーブ」

高速機動の術式を発動させ、一気に音速に近い速度まで加速した私は依然立ったままの男の子に向かい短剣を振るう。

ふふふ、反応する事も出来ませんか……それが私と貴方の力の差です。私に偉そうな態度を取った事、痛みと共に後悔する事です!

しかし、勝利の確信を持って振るった私の短剣は……何も無い空間を撫でた。

「……え?」

直後に鳥肌の立つような寒気を感じ、視線だけを横に動かすと……そこには当り前の様に右腕を振り上げている男の子の姿がありました。

な、なんで? だ、だって……さっきまでそこに……私が踏み込んだ時も、術式を発動させた時もまだ立ったままだったじゃないですか!?

初動は完全に私が早かったのに、なんで回り込まれて……

「……パルスストライク」

「あぐっ!?」

短剣を振るった体勢のまま、思考すら追いついて無い私に対し男の子が腕を振り下ろすと……凄まじい衝撃と共に私の体は地面に叩きつけられる。

体中を軋む様な痛みが駆け抜け、何が起こったのかすら分からない私は地面にうつぶせに倒れたまましばらく起き上がる事すら出来ませんでした。

しかし男の子は追撃してこずに私を見下ろしているだけ……こんな、こんな事が……

完全に舐められている事を感じながら、私は更に強い怒りを宿して短剣を逆手に構え、飛び跳ねる様に体を起こしながら男の子に振るう。

「……あ……れ?」

しかし望んだ結果は得られず、手を手刀の様な形にして振り上げている男の子の姿と……弾かれて宙を舞う私の短剣だけが目に映りました。

茫然と固まる私に対し、男の子は掌を突きだす様に構え……再び強い衝撃と共に私の体は吹き飛ばされて地面を転がる。

丁度弾かれた短剣が落ちた所に吹き飛ばされたらしく、その短剣を拾いながらも私は茫然と男の子の方に視線を向ける。

男の子はやはり追撃をしてこず、ゆっくりとこちらに向かって歩いて近ずいてきていました。

なんで、こんな……私が、こんな良い様に……

何故か体の中が冷たくなる様な不思議な感覚がしましたが、私は歯を食いしばって体を起こし二本の短剣に巨大な魔力刃を出現させる。

「はあぁぁぁぁ!!」

全力の魔力を込めその短剣を振るうと、巨大な十字の魔力刃が放たれ、ゆっくりと歩いていた男の子に当……る直前で、埃を払う様に振るわれた手刀でかき消される。

「……」

言葉が出てきませんでした。目の前の現実を信じる事も、理解する事も出来ませんでした。

ただ男の子が地面を踏む足音がやけに大きく響き、何故か私の足は力を失って尻餅をつく様に倒れてしまいました。

体が思う様に動かない? あれ、なんで私の手……震えてるんですか?

鋭い目を向けたままこちらに一歩一歩近づいてくる男の子、その視線に気圧される様に尻餅をついたままで後ろに下がり……ようやく気付く。

ああ、そうですか……この心が冷たくなるような気持ち……私は、今恐怖を感じてるんですね。

たった数度の攻防、それだけでもう私の体は、心は完全に理解してしまっていた。目の前の男の子には、私の全てが通用しないと言う事を……

そう、今の私は処刑を待つだけの生贄……男の子がその気になれば、すぐにでも地に叩き伏せられる。何の抵抗も出来ぬまま蹂躙される。それほどまでに、私と目の前の存在には力の差がある。

……怖い……怖い。

怖い、怖い、怖い、怖い……

ガチガチと歯が耳障りな音を立て、目からは涙が零れる。必死に体を動かし後ずさりながら、徐々に近づいてくる男の子から視線を外す事が出来ない。

そして私の背中がビルの壁に当り……もうこれ以上逃げられないと悟ると同時に、男の子はついに私の目の前にまで迫る。

絶対的な強者を前にし、真っ黒な恐怖に支配され……私の口は、震えながら一つの言葉を紡いだ。

「……ご……めん……なさい」

その言葉を言いきるかどうかのタイミングで男の子が手を振り上げるのが見え、恐怖に押されるままに目を閉じる。

しかし想像していた様な痛みは体に走らず、少しの後ポンッっと優しく頭に手が載せられるような感覚がして目を開きます。

すると開いた視線に映ったのは、先程までの鋭い眼では無く優しく暖かな目で微笑む男の子の顔でした。

「うん。分かればよろしい。よく謝れたね」

「……え?」

なだめる様に私の頭を撫でながら、優しい口調で話しかけてくる男の子に私は戸惑いながら視線を向けます。

「君が立派な才能を持ってるのは素晴らしい事だと思うよ。でもだからって、何でも好きな様にして良い訳じゃない……今、怖かったでしょ?」

「……はい」

「君は今日あの男の子達に同じ思いをさせたんだよ? 絡まれて反撃するのは別にいい、自分を強いって思うのだって構わない。だけど、相手の気持ちを考えられないのは魔導師以前に人間として駄目な事だ」

「……」

ゆっくりと諭す様な言葉に反論は出来ず、私はただ静かに男の子の言葉を聞き続けます。

「デバイスだってそうだよ。確かに君のデバイスはインテリジェントじゃないから喋ったりはしない。でも君の戦いを支えてくれる大切な相棒なんだよ。君だって何日も汚れたままだったり、雑に扱われたらいやでしょ?」

「……はぃ」

「だったら、デバイスの事もちゃんと大切にしてあげなくちゃね。人間は誰だって間違うし、今までの事をこれ以上叱るつもりは無い。だけど今日こうして怖いって気持ちも分かったんだから、これからはちゃんと周りの人の気持ちも考えてあげて……ね?」

「……は……ぃ」

優しく穏やかな口調、先程までの締め付ける様な恐怖から解放された安堵もあり、私の目からは止まる事無く涙が流れ、何度も何度も男の子の言葉に頷きました。

「ごめんね。痛い思いや怖い思いさせちゃって……でも、もう怒ってないから安心して」

そのまま男の子はしばらく泣き続ける私をなだめ、私が完全に泣きやむのを確認してから立ちあがり……私と一緒に廃棄都市区画の出口まで行って、軽く手を振りながら去って行きました。


遠ざかっていくその背中を見つめながら、私は強く唇を噛みしめます。


生まれて初めて叱られた……それも、エース級魔導師じゃ無く、局員ですらない同世代の男の子に叩き伏せられて、諭す様に説教をされた。


手を強く握り締めながら、心臓が強く脈打ち、顔に血が集まり熱くなるのを感じます。


男の子が去っていた方向を強い想いのこもった視線で見つめながら、私の口は自然と……今心の中に沸き上がっている感情を言葉に変えました。


「……カッコいい……」


もう頭からは戦いの最中の鋭い……凛々しくて素敵な目と、優しい笑顔が消えず、真っ赤になった頬で男の子が去っていった方向をずっとずっと見つめていました。













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10歳未満の幼女をフルボッコにするコウタ。

この子はオリジナルキャラクターの中ではメイン級になる予定で、ある程度設定も固まっている子です。

ポジション的にはコウタ、スバル、ティアの幼馴染で、訓練校でのコウタとのコンビになる予定です。

この時点ではトゲトゲしい性格ですが、コウタに叩き伏せられた事で大きく変わります。
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