笑う傷の男の話
□Drug―精神薬のご案内―
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どこかの廃ビル。
そのなかを一人の男がふらふらと歩いていた。
苦しみながら、という表現の方が正しいかもしれない。
男は柱にあちこちぶつかったり突然苦痛の声をあげたりしながらビルの中をうろうろと歩いていた。
ゴッサムシティの夜は長い。
こんな風に狂ったやつが出歩くには、十分すぎるほど長い夜だ。
そこが面白い。
時間はこの世界に平等に分け与えられているはずなのに、
なぜかこの街は夜が特別長い気がするのだ。
「まったく、厄介だね。忙しくて休めやしない。」
ジョナサン・クレインは、あちこち体をぶつけて歩いている男を眺めそんなことをいった。
「見ていく価値くらいはあるかな?」
形のいい唇を釣り上げ、彼は廃ビルへと足を踏み入れた。