笑う傷の男の話

□That's to BAD!!
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ゴードンに聞かされたその言葉は


一気に奴への信頼を損なうことになった。





俺は家路を急いだ。
別にわかっていたはずなのに。


こんなことだろうとは思っていたはずなのに。




家について真っ先に向かったのは鏡のまえ。

俺のなかに住み着いたジョーカーと会話することのできる


数少ない手段のひとつ。



「ゴードンに聞いたぞ。お前、ほんとは別の奴の体使って銀行強盗をしていたのか?」



ゴードンは、
以前やつを捕まえたとき君のDNAは一致しなかった
といっていた。


言っている意味がわからなかった。



確かにあいつは俺で、
あいつは俺の体で遊んでるはずで。


だから聞く必要があった。


でも、鏡の前に映った俺はただただ薄っぺらい笑みを浮かべるだけで



「なんだ。嫉妬してるのか」


「違う。お前は銀行強盗の常習犯だと聞いた。」




以前捕まえたときDNAが誰とも一致しなかった



そのことを話したが、鏡の中の道化は笑っていた。




「…悲しいな。俺のことは信じないのにゴードンの言葉は信じるのか。」

「…お前のことは、信じてた。でももう無理だ。」



俺はお前のことが
自分のことが信じられない。


「俺を捨てるか?」



「出来るならな。」

「嬉しいね。捨てないでくれるのか。」


………できないことぐらい知っているくせに。


「出来たらどんなに嬉しいか。」

「That's to BAD! (お気の毒!)」


ジョーカーは鏡越しに、俺に向かって手で銃の形を作って、
バーンと言っていた。


思わず苛立つ。
これだから道化は嫌いだ。



「黙ってろ」


俺は短く切り捨てた。


「黙る?俺は口がさけてて口を閉じられないのにか?!」

ジョーカーは自分のほおを指差して
ほら
と、笑った。




結局のところ、
ジョーカーはお前以外のボディはしっくりこない

といっていた。


おれはなぜか安心した。


きっと、他の人に被害がいっていなからだと思う。


ジョーカーは笑っていた。
俺を笑っていたのだろうか。
そもそも笑っているのか。

傷が邪魔でよくわからない。

あの傷がどんな理由でついたのか、
俺にもジョーカーにもわからないままだ。
少なくとも、俺のせいではないと思う。

誰がつけたのか、ジョーカーも本当に運がない男だと思う。


まあそれは俺もなんだけど。



「………That's to BAD.(お気の毒)」





数日後俺は、


数年前に
科学薬品によって肌が白くなり髪が緑色となった男が
笑いながら教会から落ちたという記録があったという事実を知り、


そいつが
『ジョーカー』
と自らを称していたことを知った。


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