笑う傷の男の話

□始まりの終わり
1ページ/1ページ


世界で一番治安の悪い町、ゴッサム。

ここでの暮らしは




言葉通り最悪だった。


空き巣に入られたとか、車を奪われたとか、そんな『安い』ものじゃない。

俺のなかで、
『ジョーカー』という極悪人が住み着いてしまった。

奴は俺が寝ている間に俺の体を使って犯罪をしている



ありがたいことに

俺が起きたとき、そこが檻の中だったことは一度もない。


そしてやつと話ができるのも

夢の中だけ。


明日はゴッサムの外へ引っ越すことになっていて、


この町が好きだといっていた奴には「最高」の知らせだった。

ところがジョーカーは、まだ俺の体のなかに住み着くつもりのようだった。

「ここでいいのか?」

俺は再度聞いた。

「俺にはこの広くて狭いあんたの中で十分だ。」

それがこいつの答えだった。

ジョーカーは俺がまだ戻って来ると信じていたのだ。


「…もうここには来ない」

ゴッサムにいるのはたくさんだった。

だがジョーカーはまだ笑っていた

「ゴッサムからは逃げられない」

俺もつられて笑って見せる

「お前も外には出られないさ」


俺の体はもう二度と使わせない。


「いや俺にはわかる。いつかお前はまたここにかえってくる」

お前は俺を捨てられない。

「ありえん」


「なら他人の体を使うさ」

他の奴に乗っ取らせるわけにはいかない


だがジョーカーは
俺がいなくなったら寂しいのか?
と笑っていた。

俺は

そうかもな

と、その場しのぎの嘘をついた。







今考えたら、


嘘じゃなかったのかもしれない。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ