恋愛無関心症患者のカルテ

□番外編:A morning once again.
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白く爽やかな光がカーテンの隙間から零れてくる、ある日の早朝。

御剣は寝室で1人、深く項垂れていた。



***



「………」

はぁ、と重い溜息を何度吐いただろう。雲1つない、晴天広がる爽やかな朝だというのに、御剣はどんよりと暗い表情でベッドに力なく腰掛けていた。

足元には脱ぎ散らかされた自分のシャツ、スラックス、下着に…バスローブ。彼1人分としてはいささかちぐはぐな衣類が、無言で事の成り行きを見守っているかのようだ。

そんな痛い沈黙に耐えかねたのか、御剣が右手で自分の前髪をぐしゃりと掻き毟る。その表情はいつになく沈痛に歪んでいた。

「――…」

御剣の脳裏に、昨夜の出来事がゆっくりと巡り出す。間違いないよう、確認するかのように。



昨夜

唯を抱いた。



途中まで受け入れるクセに最後の最後で拒む彼女の態度に、怒りにも似た激情に駆られ、キッチンで力づくに押し倒して。

そうして暴いた唯の肌に生々しく刻まれた――…最後を拒む理由を見た時。激情を塗りつぶす勢いで別の感覚が御剣を支配した。

それは高揚感…脳の芯が沸騰するほどに興奮した。傷を見て気持ちが高ぶるとか、自分自身の性癖は些か問題があるのではないかと御剣はますます頭を抱える。しかし、あの時の感覚を説明しろと言われると、やはりそういう言葉になってしまうのだ。

唯の肌に刻まれた傷痕。

それはまるで、自分だけのモノだと印されたように感じて。

逆に…下衆な感想だとは思うが、傷モノになった彼女を、自分以外の男は受け入れないだろうという確信をもたらしてくれたように感じて。

だから…昨夜は、あのまま止まれなかった。

シンクに押し倒した唯を抱き上げて寝室へ向かう間に、彼女が身にまとっていたバスローブも全て剥ぎ捨て――…今思えばムードもへったくれもない、強引な行為だった。

し、彼女にとってやはり…自分が初めての男なのだと分かったのも、無理矢理に事を進めようとする原因の1つになった。戸惑に揺れる瞳や初めての感覚に戦慄く唇、震える色づいた声に熱を孕んだ吐息…彼女のあらゆる反応全てに、己の理性はないに等しかった。



だから。



そういう目先の事だけしか見えず突っ走った結果が、今朝に繋がっている。御剣は目を閉じてもう一度重く溜息を吐き捨てると、少しだけ視線を上げ、自分が座っているベッドへと向けた。

乱れたシーツに、手のひらでそっと触れる。もう温もりも感じられないほど、そこはしんと冷えていて、彼女がいなくなってからどれほどの時が経っているのかを残酷に教えてくれる。



そう、今朝…御剣がふっと目を覚ました時には、唯の姿はどこにもなかった。



***
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