恋愛無関心症患者のカルテ

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2月某日。午前5時03分。

窓の外が、ゆっくりと静かに白んでいく。もう暫くすれば、朝焼けが空を染め始めるだろう。

その事を確認してから、御剣は手にしていた書類に視線を戻す…彼は、背もたれのない4つ足のパイプスツールに座り、簡易テーブルに向かって窮屈そうに体を丸めていた。



白くて四角い1人部屋…ここは、唯が眠る病室である。



***



「………」

無言のまま書類を読み進め、簡易テーブルの上に置かれているノートパソコンを時折操作し…御剣は執務室でする仕事を、唯の病室で行っていた。普段のデスクとは違う狭い簡易テーブルでは勝手が違うようで、御剣は実にやりづらそうだ。

それでも…御剣は淡々と、そして黙々と作業していた。

「──…」

ふと、御剣が作業の手を止めて顔を横へ向ける。視線の先にあるベッドには、唯が仰向けで横たわっていた。瞼を閉じ、薄く唇を開け…撃たれた時と変わらない姿だが、彼女を侵食していたあの赤い色はどこにも見当たらない。ただ、唯の左手首から伸びるチューブが、ベッドの傍らで吊るされている点滴へと繋がっていた。

そんな唯暫くを見つめていた御剣は、そっと右手を伸ばすと彼女の右手首に触れる。

「………、」

緩く視線を伏せて、御剣は小さく安堵の息を零す。そうして再び、作業へと戻った。

──…書類を見る、ノートパソコンを見る、唯の右手首に触れる…御剣は、作業の合間に彼女の手首へと手を伸ばす。触れる指先から伝わる、唯の確かな鼓動を感じ取る為に。

物音1つしない、完全なる静寂に守られた部屋は、逆にまた僅かな物音1つも逃さない。にも関わらず、寝息の気配すら感じられないほど唯は静かに眠っていた。手術を担当した医師から心配ないと説明されてはいたが、御剣は唯の手首に触れて指先で感じる彼女の"生きている証拠"を幾度となく、そしてこまめに確認していた。



生きている。唯は、ちゃんと生きている――…



彼女の温かさや脈拍が己の指先に触れる度、御剣にどっと押し寄せる安堵感。それは胸の奥深い場所からさざなみのように広がって、身体の隅々まで満ちていく。その感覚が心地よくて、御剣は数十分…いや、下手したら数分毎に唯の手首へ手を伸ばしていたのだった。

そうしながら…御剣は、ただひたすら唯が目を覚ますのを待っていた。閉じられた瞳が自分を見つめ、そして言葉を交わすその時を。



【んなら、言えばいいじゃんか。元気になった時にでも】

【まだ、遅くないよ。御剣】



御剣の脳裏を、幼馴染らの声が過ぎる。そう、今度こそ…今度こそ自分は伝える。凶弾に倒れた唯の体から溢れ出る血を、必死で押さえながら気付いた――…まだ彼女に言っていない事を。



今度こそ…



***
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