恋愛無関心症患者のカルテ

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ある1つの着信が、成歩堂の平和な安眠を打ち破った。



***



『…おっ!出た出た!おい、成歩堂!あんま夜遅くまで起きてたらダメだせ!?』

「…………冗談はな、笑えるから冗談なんだぞ。矢張」

成歩堂の、いつになく重いトーンの声が、彼の底知れない不機嫌さを物語っている。

しかし。矢張は悪びれた風もなく、『ワリィワリィ』と携帯の向こうで底知れない機嫌の良さで言い放った。ちなみに現在の時刻は、深夜2時半を回ったところである。

成歩堂は、ぐったりと溜息を吐いた。

「──…で、何?」

『おぉう。実はさ、さっきアネサンから俺に電話があったんだけど…』

「……アネサン?お前、姉とか居たんだ?」

『バァカ。姐さんだよ、あ・ね・さ・ん。俺らがいつも飲んでる"てんはな"の女将!』

夜中に突然起こされた挙げ句に馬鹿にされ、胸中の不機嫌さを更にムッと深めかけた成歩堂だったが、彼の口から第三者の存在…"てんはなの女将"…を告げられて、ほんの少しだけ眠気が飛ぶ。

「てんはな…?何で?」

『それがさぁ。御剣が飲んで、酔い潰れたらしんだと』

「……御剣って、あの御剣?」

『おぅ、あの御剣』

「てんはな、で?」

『おぅ、てんはなで』

「酔い潰れた…って、アイツ1人で飲んでたのか?」

『みたいだぜ。んで、潰れてたんだとよ』

「………」

にわかに信じられない話だ。成歩堂がはっきりと覚醒した意識で考えていると、矢張が『もしもしィ?』と携帯の向こうから呼び付けた。

「聞こえてるよ」

『んだよ、いきなり無言になったから電話切れたかと思ったぜ』

「それで…お前、何で僕に電話してきたんだよ?」

『それそれ!お前さ、ひとっぱしり"てんはな"に行って、御剣を回収しに行ってくんねぇ?』

「……はぁあ??」

成歩堂がすっとんきょうな声を上げると、すかさず矢張が説明を続けた。

『御剣が潰れて起きねぇもんで、姐さん、店が閉められないんだわ。だから成歩堂、行って来い』

「──…ま、待った。お前ンとこに電話来たんだろ?何で僕が行かなきゃいけないんだよ」

『いやぁああ〜〜〜俺さぁ、今さぁ、リコちゃんと一緒だからさぁ………よろしくっ!』

「………」

携帯を握り締めたまま、再び無言になる成歩堂の耳に、『お前、ヒマだろ?仕事も、プライベートもさ!?』という矢張の追い討ちの言葉が響く。恋人がいないというだけで、何故こんな不平等な扱いを受けねばならぬのか。

『そんでリコちゃん。これまたイイ女でさぁ〜運命だったんだよなぁきっと〜』…という、語尾に花をポンポン飛ばしかねない勢いで惚気ようとする矢張との通話を断りもなく切って、成歩堂はベッドの上で項垂れたのであった。



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