恋愛無関心症患者のカルテ

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本来の流れに逆らう、別の流れ。

それを見つけた御剣と唯は、彼らの動きに倣って不野山邸の内部へ入った。



***



豪奢なカーテンの影にある、ひっそりと開いたドア。それを抜けると、今度は地下へと続く薄暗い階段が見えた。行く場所はそこしかないので、2人は一度だけ顔を見合わせるとゆっくりと下へ降りていった。



コッ、カツン コッ、カツン



御剣の靴と唯のヒールの音が混ざり合う音が響く中、ようやく階段が終わり平坦な通路になった。そこを更に数歩先へ歩いた時…

「失礼。ここから先は、こちらをお付けくださいますようお願いいたします」

突然、ぬっと現れた執事服の男性に、唯は喉奥に叫び声を飲み込んで、びくりと大きく震えた。驚かせた事に気付いたのか、男は恭しく一礼する。彼の顔には、口元と目の部分以外を覆い隠すように、のっぺりとした白いマスクがつけられていた。

ちなみに、その男が"こちらを"と言って差し出した物は…今、彼が付けている物と同じマスク。トレイにずらりと並ぶそれを一瞥した御剣は、変装の為に掛けていたメガネを外すとゆっくりと手を伸ばした。

「――…」

御剣は訝しげに男を見ながら、手に取ったマスクを顔にあてがう。どうやらマスクの両端にあるリボンを、頭の後ろで結んで留めるタイプのマスクのようだ。御剣はぎこちない手つきでリボンと格闘するが、なかなか上手くいかない。

「……お貸しになって」

「す、すまん」

焦れた唯が、御剣の手から強引にリボンを奪うと、背伸びをして手早くしっかりと結んだ。男は黙ってそれを見ているが、マスクで隠されたその表情は伺い知る事が出来ない。

唯もトレイからマスクを手に取ると、自分でリボンを結ぶ。ようやく付け終わった2人に、男は唯一見える口元をニッと歪めて呟いた。

「失礼ですが…御眼鏡は掛けられないのですか?」

「「………」」

執事の問いかけに、御剣と唯は思わず顔を見合わせる。そうやって暫く見つめ合っていたが、御剣が渋々と言った感じでマスクの上からメガネを掛けた。

それを見届けて、執事は再びニヤリと笑った。

「よくお似合いです。そのまま1本道になっておりますので、どうぞ先へお進みくださいませ」

良き夜を…最後にそう告げた男の呟きを横目でちらりと確認してから、御剣は唯を伴って歩き出すと、彼女が声を一段と潜めて話し始めた。

「……イチモンジ様」

「何だ」

「マスクの上にメガネは、ちょっとアレですよ」

「………仕方なかろう」

「伊達なのだ、と言えば良かったのに」

「………それは」

思いつかなかった、と御剣は吐き捨てるとすぐさまメガネを外して胸ポケットへと押し込んだ。



***
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