恋愛無関心症患者のカルテ

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「そんでその時のシオリちゃんの"大丈夫?"って言葉によぉ〜俺様はググって来たわけよ〜分かるぅ〜?」

チュウハイジョッキを片手に、デレデレと己のノロケ話に蕩けた表情で語るのは矢張。成歩堂は枝豆をぱくつきながら「うんうん」と適当すぎる生返事をし、御剣に至ってはワインを口に含みながら次に頼むつまみを選ぶためにメニュー表を眺めている。

誰1人として、矢張の暑苦しいノロケ話を聞いていないのは明らかなのだが…本人は話さえすればいいのか「いい女だよ〜あんなに出来た女は今時珍しいぜ」と自分の恋人を褒めちぎっていた。

独身男3人が集まって恋バナ…非常にサムすぎる光景だが、このやりとりが矢張会のおよそ9割を占めている。

矢張がノロケ、時には失恋にむせび泣きながら恋愛を語り、それを100%聞き流す成歩堂と御剣…これが矢張会の実態なのだ。

いい年した成人男性なら、仕事の話でもすればいいのに…とも思うが、彼ら3人の職業に共通点は少なく、特に成歩堂と御剣に至っては弁護士と検事という立場上、お互い仕事を話すのははばかられた。簡単な近況報告がせいぜいである。

なので、矢張会はその名の通り矢張の独壇場で、女子会さながらの(一方的な)恋バナが主体となっているのであった。

「っていうか」

チュウハイジョッキをごくごくと飲み干し、ぷはぁと一息ついた矢張が再び会話の口火を切る。

「お前らはどーなんだよ?」

「うんうん」

「………おい、成歩堂」

「うんう……え?あ、うん?あれ?話、終わった?」

名前を呼ばれてはっと顔を上げた成歩堂に、矢張はがっくりと肩を落とす。

「だーかーらー!おめーらだよ、おめーらの話!何かねーのかよ女関係のさぁ!」

ジョッキの底をテーブルにガンガンと打ち付けて矢張が吠える。すかさず店の女将から「やめとくれよ矢張さん〜!」という注意が飛んできた。威勢の良さもこの店の売りである。

「わりぃわりぃ!姐さん、レモンチューハイおかわりね!……なぁ成歩堂、お前マジで彼女とかいねーの?」

「は?いやー、だって僕、駆け出し弁護士だから正直それどころじゃないし」

遠くの恋より近くの依頼。閑古鳥の巣と貸してる事務所(の家賃)を何とかするのに一生懸命なのだと成歩堂は説明した。それを聞いて、矢張はつまらなさそうに溜息をつく。

「それじゃーオメー、仕事が恋人って感じじゃねーか」

「あはは、そうだね」

「そうだね…じゃ、ねーよ!若い身空で情けねーぞ成歩堂!仕事が恋人って、御剣みてーじゃねーか!」

急に自分の名前が話題に登場して、無言で飲んでいた御剣が2人に視線を向けた。

「呼んだか?」

「呼んでねーよ。おめーの答えはどーせ分かってるからな」

「……何がだ」

「女だよオンナ!どうせ、縁ないんだろ〜?」

揶揄するような矢張の口調に、御剣は怒るのかと思いきや、「クッ」と嘲笑を口元に滲ませた。

「いや。割とコンスタントにある。君達が知らないだけだ」

「「………は?」」

「女と縁がない、という事はない。矢張、君の思い込みだそれは」

御剣が、矢張の恋バナに参加している。珍しい…というより初めての事に、2人は目を丸くさせた。

「じゃ…じゃあ……付き合った事とかあるの?」

「我々の年齢を鑑みたまえ。まぁ、数ならそこのレンタル男には負けるがな」

「んだよ、レンタルって」

「……シオリとやらの返却期間は、今度はいつ頃になるのだろうな?成歩堂」

短くて2〜3日、長くても1ヶ月続くかどうかという矢張の恋愛の短さについて揶揄した御剣の発言に、当の本人は「何を分っかんねー事言ってんだよ」と肩をすくめたが、成歩堂は巻き込まれたくないと敢えて本題を続行させた。

「と、とにかく…あるのか〜知らなかったなぁ。御剣に彼女かぁ」

「…まぁぶっちゃけ、コイツはモテる要素を持ちすぎだからな」

"想像つかない"と言いたげな成歩堂と、"ケッ"と嫉妬を滲ませた悪態をつく矢張。身長も高い部類で、公務員という安定した職、そして上級検事として手にする高給に端正な顔立ちと頭の良さ…天から二物も三物も与えられた男が御剣怜侍である。女性が放っておくはずがない。



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