過去拍手

□夏は田舎へ行こう!-06
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午後。風鈴がそよそよと風に揺れて、細く鳴る。

「…信じらんない」

ぽつりと呟く私の瞳は愕然と、居間で繰り広げられている光景に釘付けになっていた。

畳の居間で。

御剣さんと子供達が。



大の字になって昼寝。




「……信じらんない」

もう1回呟いて、私は彼らを団扇でそよそよと扇ぐお姉の隣に座る。

一番目を引くのは…やっぱり身体の大きい御剣さんだ。比喩でも何でもなく、本当に両手両足で"大"の字を表現している。トレードマークの眉間のシワも消えていて、口なんかうっすらと開いて健やかな寝息を立てている。

その伸ばされた右腕にあーちゃん、反対側の左腕にまーちゃん。ジロ君に至っては御剣さんの右脇腹に片足を乗っけて寝ている始末。

「何が信じられないの〜?」

おっとりとした口調で、お姉が呟く。私は思わず力説した。寝ている彼らを起こさないように、声は顰めて。

「お姉は知らないんだよ!御剣さん、本当はこーゆーキャラじゃないんだよ!?」

「あら〜」

「御剣さんは不眠不休でバリバリ働く検事さんで!検事局でも天才って言われる凄い人で!いっつも難しそうな書類をざくざく処理してるんだから!」

「あらあら〜」

「色んな事件の裁判を受け持っていて!有名な事件の裁判も任されてるんだよ!トノサマンの事件も知ってるでしょ!?それに、20歳で初めて検事として裁判に立ってるんだよ!」

「あらまぁ〜」

「こんな風にバカみたいに口開けて寝てるなんて、しないんだよ!裁判でも弁護士を"異議あり!"って指差して矛盾を指摘して、相手をタジタジにさせちゃうんだから!」

「まぁまぁ〜」

「聞いてる!?お姉!」

相変わらずのんきに受け答えをするお姉に、思わず詰め寄る。

すると、お姉はのほほんと笑いながら口を開いた。

「あなた、本当に御剣さんが大好きなのねぇ〜」

「んなっ!?」

なんでそんな話になる訳!?本気で顎を落としかけた私に、お姉は話を続ける。

「こんな風に寝ている御剣さんは、嫌い?」

「………」

「カッコイイ御剣さんしか、好きじゃない?」

「そ」



そういう訳じゃ、ないけど…



もじもじと呟くと、お姉はにっこりと笑った。

「さっきまで子供達と川で遊んでくれてたから、御剣さんも疲れたのよねぇ〜」

「……うん」

「寝ないでお仕事頑張ってるんでしょう?」

「……うん」

「ここでゆっくり出来るといいわね〜」



うん。



頷いて、私は膝を抱えると未だぐっすりと眠りこける御剣さんと子供達を見た。

子供達に埋もれるようにして眠っている御剣さん。こんなにひっついて眠って、暑くないかな?

そんな事を考えていると、ジロ君が急にもう片方の足を上げて、どすんと御剣さんのお腹に乗せてきた。

「ぐ」

さすがに痛かったのか、御剣さんが呻く。眉間にも一瞬シワが寄って、私も思わず息を飲んだ。お姉もきょとんと目を丸くさせる。

「ん、…」

でも、御剣さんはすぐにまた夢の世界に沈んでいったようで、健やかな寝顔と寝息をそのまま続けた。

「………」

「………」

そんな御剣さんに、私とお姉は思わず顔を見合わせて笑った。縁側に吊るされた風鈴も、ちりんと細く笑ったような気がする。

「なんか私も眠くなる〜」

「じゃあ、一緒に寝なさい」

お姉の提案に、私は素直に乗る事にした。御剣さんはかなり占領されているから少し悩んだけど、まーちゃんの隣に横になる。

ぐいぐいとまーちゃんを御剣さん側に引っ付けて、少し空いたその腕を枕替わりに頭を乗っけてみた。



んー…

やっぱ

御剣さんの腕枕は最高で、丁度いい高さだなぁ



なんて事をうっとりと考えているうちに、睡魔はあっという間に私の意識を組み伏せに掛る。私だって川で遊んだんだもの。水遊びって意外と疲れるんだよね。

帰省から帰っても…こうやって御剣さんと昼寝するのも、いいかもー。



反射なのか無意識なのか、御剣さんの手のひらが私の髪を撫でる優しい気配に、私はますます夢の世界へ深く沈んでいった。


***夏は田舎へ行こう!-06:END
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