過去拍手

□夏は田舎へ行こう!-03
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飛行機2時間、バス1時間、フェリー4時間、バス2時間…



計9時間の行程を経て辿り着くのが、私の実家。

電気はあるけど、ガスはなし。水は井戸水。そして携帯電話は通じない。



田園風景のどかな、まさしくここはドが付く田舎。



そんなところに、かの検察局きっての天才検事・御剣怜侍が1週間の有給と共にやってきた。



普段の生活ですら、一般人とは頭1つ分も2つ分も抜きん出た高級志向の彼が



………この田舎でどんな生活を送るのか。




楽しみでもあったし不安もあったが、意外と馴染んでいる彼に私は驚きを隠せない。



***



「いーち、にーぃ、さーん…」

縁側から庭を遠くに眺める。私の姉とその子供達(私からすと姪っ子と甥っ子)らと一緒に、御剣さんが洗濯をしているという光景が見える。

洗濯板でごしごしと衣類を擦る姉の傍で、御剣さんが姪っ子と甥っ子と一緒に洗濯物を足でぐしゃぐしゃに踏みつけているのだ。しかも、子供達の掛け声と共に、リズムよく右足・左足・右足・左足…

御剣さんは踝(くるぶし)まであるベージュのチノパンを膝下まで折り曲げ、いつもよく見る気難しい表情でぐしゃぐしゃと踏んでいる。検事局の執務室で書類と格闘する普段の彼を知っている私としては、それはある意味末恐ろしい光景だ。

そんな彼の傍では、姪(ちなみに8歳と6歳)と甥(3歳)がキャッキャッと黄色い悲鳴を賑やかに弾かせて、御剣さんと一緒に洗濯物を踏みつけていた。御剣さんは子供達の足を踏まないようにか、ますます眉間にシワを寄せて真剣そのものの表情で踏みたくる。

姉はそんな子供達(と、御剣さん)の姿をにこにこと見つめながら、ごしごしと洗濯していた。



…いいのか。こんな事をあの天下の天才検事にさせて。



意味不明な罪悪感みたいなものが、私の心を挙動不審に急かす。しかしこれは、御剣さん本人から申し出た事なのだから仕方がない…と、自分に言い聞かせた。

「あーーー!これ誰のー?」

6歳の姪っ子の甲高い声に、はっと我に返る。彼女はグレーの衣類を高々と両手で持って広げた。

――…っていうか、ソレは。

「ム!?そ、それは…!君が持つような物ではない!返すんだ!」

姪が手にするソレを御剣さんが見るなり、顔を赤らめて取り上げようと手を伸ばした。

しかし、それより先に姪がするりと逃げ出す。

「ミツルギのだー!」

「ミツルギのー?!」

「バカもの!返したまえ!!」

「わーい!ミツルギぱんつだー!」

「ミツルギぱんつー!ミツルギぱんつー!」

「みちゅるぎぱんちゅー!」

「待ちたま…うわっ!」



べしゃ。



ソレ…御剣さんのボクサーパンツを手にしたまま逃げ出した姪っ子と甥っ子を追いかけようと、慌てて動いた御剣さんが濡れた洗濯物に足を引っ掛けて無様に転ぶ。

途端、湧き上がる子供達の歓声。暫く庭で臥せっていた彼だったが、ぐぐっと起き上がると「貴様らー!」と憤怒の形相で子供達に突進しだした。ちなみに子供達は、そりゃもう大喜びで鬼ごっこよろしく逃げ出す。まさにそれはリアルな鬼ごっこだった。

私はその一部始終を余すことなく眺め…思わず頭を抱えて溜息をついた。

楽しそうで何よりです。御剣さん。



***
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