過去拍手
□夏は田舎へ行こう!-02
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「………」
御剣怜侍は現在、素っ裸で風呂場に立ち尽くしていた。腰には一枚のタオルを巻いている。
彼の目は、湯船を静かに見つめている。床から膝丈くらいの位置に埋め込まれたそれには、なみなみとたっぷりのお湯が張ってあり、ふわりと湯気が立ち込めていた。
そうやって暫く見つめていた御剣だったが、顎を軽く引き、何かを決意した瞳で湯船へ近づいた。そしてそうっと足先を湯船の中へ伸ばす。
ちゃぷん、と揺れる湯が彼の足に触れる。やがて彼の足先が湯船の底に触れた瞬間…
「っ、ち」
壮絶な熱さに、御剣は呻くと慌てて足を引っ込めた。
入れない、熱すぎて…
御剣はほとほと困り果てて溜息を1つついた。
壮絶な熱さとは大袈裟かもしれないが、正直これではヤケドしてしまう。お湯は問題ないのに、湯船の底の部分だけが異様に熱いのだ。
実物を見たのは初めてだったが、これが五右衛門風呂なのだという事を御剣は分かっていた。しかし、入り方が分からない。
ここの家族らは入り慣れているから、この常識外れな熱さも平気なのだろうかと一瞬思った。が、それにしたってヤケドの危険性を孕むこの熱さは、慣れる慣れないの問題ではない気がする。
…実は風呂場へ入って一番最初に湯船に浮かんでいた蓋らしい板を外し、何の考えもなしに底まで足を突っ込んで悲鳴を上げた御剣である。一応腹を括って2回目に挑戦した訳だが、結果は同じだった。
「………」
仕方がない。ゆっくりと入りたいのは山々だが、掛け湯で我慢するしかない。そう決めた御剣は桶を手にした。
……その時だった。
***