過去拍手
□夏は田舎へ行こう!-01
3ページ/3ページ
結局。
御剣さんは本当に馬車馬のように働き、本当に1週間の有給をもぎ取り、本当に飛行機と船とバスを乗り継いで9時間、私の実家へやってきた。
朝に出発して到着したのは夕方頃。移動だけで1日を使う長旅だったのに、御剣さんはちっとも堪えた様子はなかった。
「海外出張で慣らしてるからな。この程度、どうって事はない」
ところで、携帯が繋がらないのは良かったの?
「無論だ。イトノコギリ刑事を含め、各関係者にはちゃんと言い含めてきてる。心配はいらない」
………いつになくマジっすね。
「当たり前だ。結婚前提の付き合いを、君のご両親に承諾していただくという重大な事柄だからな」
…と、気合の入った笑みを浮かべていた御剣さんだったけど。
私の思った通り。特に揉める事もなく、両親からはあっさりと"結婚前提の付き合い"の了承を得た。
「ム…誤算だったな。まさかこんなにあっさり了承していただけるとは…いや、拗れなくて良かったとは思うが…」
うち、女系なんですよね。祖母、母、父、姉、姉の夫、姉の娘と娘と息子の4世代同居ですから。女性受けがいい御剣さんなら大丈夫だと思ってました。
「そうなのか?」
父も義兄も婿養子なんですよ。発言力の強さで言ったら、うちは女性の方が強いんです。
「………君のルーツが、今の瞬間理解出来た気がする」
どういう意味ですかそれ。それに義兄はお酒がダメな人で、父は常日頃から「息子と酒を酌み交わしたい」と嘆いてましたから、その点で御剣さんは合格だったんですよ。
「…随分と些細な理由だな」
で。どうします?明日にでも切り上げて帰ります?
「いや。あれだけ働いて得た有給だ。存分に使わせてもらおう。暫く厄介になる」
は?うちで過ごすんですか?
「そうだ」
あの…田舎ですよ?娯楽ないし、バスなんか午前と午後それぞれ2本とかいうレベルなんですよ?
「分かってる」
ワインも紅茶もないんですよ?
「………君は、私がここにいるのはイヤなのか?」
え?え??い、イヤじゃないです。念のため、覚悟を確認したかっただけで。
「君が過ごした場所を、見てみたいのだ。どんな道を歩き、どんな人に囲まれていたのか…私の知らない君を、知りたい」
………
…御剣さん。
「何だ?」
真顔で恥ずかしい事を言うの、やめてください。
「………」
***END.