そんな時はどうぞ紅茶を

□番外編:隠れんぼの朝
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………

……

…重い。



それが、澪が目覚めてまず最初に思った事である。



***



ゆっくりと覚醒する意識に釣られてじわじわと実感を伴う重みに、澪は閉じていた目をうっすらと開けた。じわっと滲む視界に焦点がなかなか定まらない。

「…ん」

澪は小さく呻くと、左手で目をごしごしと擦る。そうして、一度だけぎゅっと瞼に力を込めてからぱちっと勢い良く開けた。

瞬間、鮮明になる視界に飛び込んできた信じられない光景に、澪の瞳孔がぎゅんと縮まる。

「………」

叫び声が出なかったのが不思議なほど、心臓がばくばくと激しく脈打つ。おかげで血の巡りが良くなって体温が一気に上昇した。

澪の目に映る信じられない光景…それは目の前に、いや…目と鼻の先ほどの至近距離に御剣の顔があるという光景。

普段の冷酷さを湛える双眸は閉じられていて、御剣は穏やかな寝息を立てて眠っていた。そんな無防備とも言える彼の寝顔を、澪は文字通り息を止めて凝視している。

1つでも周囲の事が把握出来ると、一瞬にして自分を取り巻く状況が理解出来る。

ここは御剣のマンションで。

自分は御剣のベッドに横になっていて。

服を着ていなくて。

それは目の前の御剣も同じで――…



「――…」

そこまで理解すれば、後は怒涛のように昨夜の記憶が押し寄せてくる。先程から忙しなく脈打つ心臓は、このままいくと本気で爆発してしまうのではないかという程に激しいテンポで脈を打つ。赤面しているのは鏡を見ずとも自覚出来るが、それでも澪は寝ている御剣から視線を逸らす事が出来ずにいた。

昨夜…御剣のマンションから出ていこうとしたら彼に背後から抱きしめられて、寝室へと連れて行かれた。

【…優しく出来ないかもしれない】

大きなベッドに押し倒され、嵐のような口づけの合間に呟かれた御剣の言葉に、自分は「いいよ」とだけ返事をした訳だが…

「………」

詰めていた息を、澪はそっと静かに逃がす。"優しく出来ない"と本人が言っていただけあって、昨夜は彼らしからぬ荒さと強引さが際立つ行為だった…と、思う。

酷くされた訳では、決してない。ただ普段の冷静沈着な彼と同一とは思えないほどの激情と熱情に飲み込まれて、自分も信じられないほどに乱れた…ような気がする。

…抱かれた、と大きな一括りとして理解はしているが、その詳細な部分は酷く曖昧である。覚えているのは御剣は大体4つの言葉を繰り返していたな、くらいだろうか。



好きだ

愛してる

欲しい

――…澪



澪の頬に、また熱が集まる。強く求められるのは、嬉しい。けれど昨夜の自分を、御剣はどう思っただろうか。胸が少々を通り過ぎて小ぶりちゃんなのもそうだし、何より結構イヤラシかったような気がする。御剣語でいうなら"そのようなアレは困る"だろうか…自分で考えておきながら、ちょっと訳わからない。

「………」

そこまで考えてしまうと、もう居ても立ってもいられない。今更だが、とても恥ずかしい。澪はゆっくりと反対側に寝返りを打ちながら、自分の身体に絡みつく御剣の腕からそっと抜け出た。重い重いと思ったのは、この腕のせいのようだ。

「…ふぅ」

するりとベッドの外へと脱出した澪は、安堵の息を吐き出す。御剣は未だに深く眠りこけていた。そんな意外とあどけない寝顔を見てから、澪は静かに寝室を出るとバスルームへと向かったのである。



***
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