そんな時はどうぞ紅茶を

□番外編:メイちゃんの恋愛講座
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数分後…

「………」

痛いほどの沈黙に、御剣はそおっとデスクから顔の上半分…目の部分を覗かせて周囲を確認する。

部屋の至る所に鞭の痕を見つけ…特にぎちぎちに詰め込んでいたはずの本棚から、ファイルが飛び出している様を目にした御剣の顔が青ざめる。どんな暴力がそこに振るわれたのか、想像を絶するし、したくもない。

職場を無残にも荒らされたが、窓辺に飾ってあるトノサマンフィギュアと紅茶セットが奇跡的に無傷で残っていた事に、御剣は心の底から安堵の溜息をつく。どちらか1つは破壊されているだろうと覚悟していただけに、その安堵感はひとしおである。

「…出てきなさい。御剣怜侍」

「………」

メイの静かな呼びかけに、御剣は反射的に出していた顔を引っ込めた。7つも下の、しかも女性相手にこのザマはほとほと情けないが、そうも言ってられない。

「出てきなさい。馬鹿な男が馬鹿なりに馬鹿みたいに恋をしているという事を、狩魔冥が懇切丁寧に教えてあげるわ」

感謝しろ、と言いたげな口調で言われても御剣は動けない。メイはふっと冷笑を漏らした。

「そこにあるふざけたフィギュアは、職務に必要な物ではなさそうね。私の鞭の出番かしら?」

「や、やめてくれ」

歌うように呟かれたセリフに、御剣は脊髄が凍りついた。デスクからよろめくように出てくるとトノサマンを庇うように立つ。

メイは顎を上げると半目で御剣を見下ろすように冷めた視線を向け、無言のままくいっと顎をしゃくってソファを指し示した。座れと言いたいらしい。御剣は素早くそれに従う。

「………」

まとめた鞭を片手に持ったまま、メイは御剣が座るソファへゆっくりと床を踏み鳴らしながら歩み寄る。御剣は両手を己の膝頭に置いて彼女を待ち受けた。

「…レイジ。貴方…本当に分からないの?自分の事なのよ?」

自分が彼女を好いている…という事を示していると読んで、御剣は眉間に皺を寄せる。

「逆に問うが、何故君はそう思うのだ?」

「峰沢がヤケドをした際の、貴方の態度よ。いつも沈着冷静な貴方が、あんなに慌てふためいて彼女に走り寄って…」

「あわてて…た?」

「さっきもそう。私がここに帰ってくるなり、モップを放り投げて何よりもまず彼女の容態を確かめた。こんなにも分かりやすい事例、他になくってよ?」

「………」

御剣は顔を顰める。たったそれだけの事で、好意を持っているなどと分かるのだろうか?彼女の思い違いではないのか?

納得していないと悟ったのか、メイは軽く溜息をついた。

「じゃあ、テーマを変えましょう。何故、彼女が取り乱すのか」

「!」

「それは知ってるわよね?さっき、貴方は彼女から腕を振り払われたのだから」

思い出して、御剣は表情を歪ませる。ヤケドをした左の腕を掴んだ時…



【やっ!】



その一言と共に、思いっきり振り払われたのだ。あれは、明らかな拒絶だった。拒まれたのだ…何故か。

「……いい表情ね、レイジ。何を考えているのかしら?」

「…っ」

メイの指摘に、御剣は舌打ちをして視線を横へ背ける。彼女はくつくつと喉奥を楽しげに鳴らした。

「でも、それを知るためには…レイジ、貴方の証言が必要よ」

「何?」

御剣が振り向く。メイは両腕を組んで座る彼を威圧的に見下ろした。

「彼女…峰沢と初めて会った時から今までの事を順序よく話しなさい。そこにヒントが隠されているはずよ」

御剣の瞳が、見開かれた。



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