そんな時はどうぞ紅茶を

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密閉された狭い空間。

正面を睨む御剣と、彼から背を向けて窓の外を見つめる澪。

身の内でざわつく感情に自分自身を見失わないように澪は唇を引き結んで、窓の外を水のように流れていく景色を必死に見つめていた。



***



「……何故、嘘をついた」



御剣の冷えた声が、車内に落ちる。その声に触れた鼓膜から澪の心臓へ衝撃が走り、ひくっと目尻を震わせた。

…やはり、自分は彼を前にするとどうしようもないほど動揺してしまう。それを改めて実感しながらも、澪は御剣の質問には答える事が出来なかった。

「左手にはヤケドの名残すら見当たらない。市庭が言っていた全治3週間という発言と矛盾する。何故だ?理由を言いたまえ」

「………」

「では…市庭自身が嘘をついたのか?」

その質問に、澪は「違います」と小さく否定した。彼の怒りの矛先を、無関係の市庭へ向かわせるわけにはいかない。

御剣は眉1つ動かさず、アクセルを徐々に踏み込んでいった。エンジンが唸りを上げながらその勢いを増していく。

「…それなら、君自身が嘘を付いたという事になるな。その理由を言いたまえ」

「………」

「黙秘権行使か。いい度胸だ…」

クッと喉を鳴らして御剣が笑う。変わらず窓の外を眺める澪は、その気配を己の背中で感じ取った。

そして次の瞬間、目の前の景色が暗転する。赤みがかったオレンジの光が、一定間隔で流れるそこはトンネルの中だった。どうやら自分達は高速に乗っているようだと澪は理解する。

窓ガラスを透かして見る外の景色に被さる、反射された御剣の横顔。それを見つめていた澪は、また胸の中心を焦がすような感覚に息を止めた。

嘘がバレた以上、御剣の質問には答えなければならない。しかし、澪はどう答えればいいのかが分からない。



貴方を前にすると情緒不安定になって、自分が自分でなくなるのが怖い。それによって自分と彼との関係性が変わってしまうのが何よりも怖いのだと…それをどう説明しろというのだ。



沈黙を貫く澪に、御剣は正面を向いたまま同じように無言でハンドルを握っていた。が、やがてその目元をふっと翳らせる。

「……私に、会いたくなかったか」

「――…っ」

ぴくんと澪の肩が跳ねる。会うのが怖いのは確かだが、だからといって会いたくなかったのかと問われると……違うと思う自分がいる。事実、御剣から離れて4日間、澪は心にぽっかりと埋められない穴が空いたような違和感を抱えていた。

会うのが怖い。でも会いたい…相反する2つの欲求の隙間に落ちていく。その奈落の底で、どうすればいいのかと澪は呆然と立ち尽くすのだ。

「嘘を付いてでも…会いたくなかった、か――?」

「………」

「…答えろ。澪」

彼の声が、自分の名前を形作るだけで、心が張り裂けて泣いてしまいそうだ。そうしてまた1つ自分を失う。澪はぎゅっと全身を強ばらせて窓枠にしがみついた。

「………私を、見てくれ。澪――…」

溜息を含む彼の掠れた呟きに、澪は目を閉じると蹲るように窓枠を掴んでいた手に額をこすりつけた。



***
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