そんな時はどうぞ紅茶を

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「はい、ホテルバンドーの市庭でございます……あぁ、これは御剣様。先日はうちの峰沢がとんだご迷惑を――…」



***



――翌日。

ホテルバンドーの事務所に鳴り響く電話を取った市庭が、謝罪のセリフと共に頭を下げた。



「…いえ。御剣様が気にされる事は何も。お気遣いありがとうございます」



「はい……はい。いつもの、ですねぇ――…あーー…あのぅ〜、御剣様…その件についてお伝えしなければならない事が、その――…」



「実は……峰沢の怪我が落ち着くまで、業務を事務の方に回しておりまして……あぁ!いえ!ご心配には及びません!病院にもきちんと……はい。はい」



「全治1週……あ、いえ、3週間でした申し訳ありません。えぇ、3週間と聞いております。その間の配達業務は……はい、はい。えぇ……」




「こちらの不注意とはいえ、御剣様のご要望にお応え出来ず、誠に申し訳ありません…差し出がましいですが、前任のボーイを派遣する事も出来ま――…左様でございますか」



「はい。この度は誠に申し訳ありませんでした。またのご利用をお待ちしております――…」



カチャ。



会話を終えた市庭が、受話器を置く。そしてどっと重たい溜息を付いて机に突っ伏した。

「んも〜〜〜〜勘弁してよ峰沢君〜〜。お客様…しかも、検事様相手に嘘をつくこっちの立場も考えてよ〜〜」

「………すみません」

盛大に愚痴る市庭に、澪は頭を下げた。

「そこで聞いてたなら分かるだろうけど、御剣様もすっごい心配されていたよ?君が戻るまで注文も控えるって。怒られる心配をしてるなら、今からでも会いに行けばいいよ」

「……すみません」

「……ねぇ、どうしたの?いきなり"御剣タイムから外してください"って」

「…すみません」

「前はさ、峰沢君も楽しみにしてたじゃないの。ほんと、大丈夫なの?何かあったの?」

市庭の質問攻めに、澪は顔を曇らせたまま「すみません」だけを繰り返す。そんな反応に、市庭は肩を竦めて溜息を付いた。

「言いたくないならボクも無理にとは言わないよ……ほら、業務に戻って」

「すみません、市庭さん」

もう一度頭を下げて、澪は市庭の前を辞すると自分の業務であるレストラン内へと向かった。



***
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