そんな時はどうぞ紅茶を

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23時40分。

明かりが落とされた、12階の検事局廊下。

澪は、"1202"と刻印されたプレートを掲げているドアの前に立ち尽くしていた。



手続きは御剣が言っていた通りに今日中に終わり、そして時間も掛かった。

それでも20時くらいには終わって、現在の澪は容疑が完全に晴れた、正式な一般人となってここにいた。

「………」

無言で、ドアを見つめる。

「必ず来るように」と御剣に言われたが、澪はどうしてもそのドアをノック出来ない。手続きが終わって約3時間、澪は1階と12階をエレベーターで何度となく往復していた。

もう検事局内に人はいないのか、幸いに咎められる事はなかった…が、不審行動に違いない。これ以上ウロウロしていたら、折角外に出られたのにまた留置所へ逆戻りになってしまいそうだ。



【必ず、ここへ来るように】



「………」

御剣はそう告げたが、一体どういう意図があるのか、あの時の彼の表情から読み取る事が出来なかった。

数時間前まで、自分を有罪だと断じていた御剣。

取り調べの時の、凍てついた瞳の色が忘れられない。

こちらを一切振り返らず、「今の私には、君の声は届かない」と背中で告げた時の事が、どうしても頭から離れられない。

「………」

もう。

あの頃のように、紅茶を運んだりする事は…

「………」

逮捕されてから今日の裁判を含めると4日。

その間、検事として自分と接する御剣をこれほど近くで見たというのに、澪は以前のような関係に戻れない事が、とても寂しくて悲しく思えた。

このドアを開けなければ、もしかしたらまた前みたいに…

「………」

そっと目を閉じて息を吐き出すと、きゅっと瞳に固い決心を宿して再び目を開けた。そしてゆっくりと右手を拳に形作ると、手の甲をドアに軽く叩きつける。



コン……コン。



「………入りたまえ」

「………」

以前となんら変わらないやり取りに、滲みそうになる涙を必死に我慢しながら、澪は一度深呼吸をするとドアノブに手をかけた。

過去には戻れない。

過去は返ってこない。

なら、きちんと向き合って…終わりにしよう。

そんな決意を胸に抱えながら、澪はドアを押し開けた。



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