そんな時はどうぞ紅茶を
□21
1ページ/3ページ
23時40分。
明かりが落とされた、12階の検事局廊下。
澪は、"1202"と刻印されたプレートを掲げているドアの前に立ち尽くしていた。
手続きは御剣が言っていた通りに今日中に終わり、そして時間も掛かった。
それでも20時くらいには終わって、現在の澪は容疑が完全に晴れた、正式な一般人となってここにいた。
「………」
無言で、ドアを見つめる。
「必ず来るように」と御剣に言われたが、澪はどうしてもそのドアをノック出来ない。手続きが終わって約3時間、澪は1階と12階をエレベーターで何度となく往復していた。
もう検事局内に人はいないのか、幸いに咎められる事はなかった…が、不審行動に違いない。これ以上ウロウロしていたら、折角外に出られたのにまた留置所へ逆戻りになってしまいそうだ。
【必ず、ここへ来るように】
「………」
御剣はそう告げたが、一体どういう意図があるのか、あの時の彼の表情から読み取る事が出来なかった。
数時間前まで、自分を有罪だと断じていた御剣。
取り調べの時の、凍てついた瞳の色が忘れられない。
こちらを一切振り返らず、「今の私には、君の声は届かない」と背中で告げた時の事が、どうしても頭から離れられない。
「………」
もう。
あの頃のように、紅茶を運んだりする事は…
「………」
逮捕されてから今日の裁判を含めると4日。
その間、検事として自分と接する御剣をこれほど近くで見たというのに、澪は以前のような関係に戻れない事が、とても寂しくて悲しく思えた。
このドアを開けなければ、もしかしたらまた前みたいに…
「………」
そっと目を閉じて息を吐き出すと、きゅっと瞳に固い決心を宿して再び目を開けた。そしてゆっくりと右手を拳に形作ると、手の甲をドアに軽く叩きつける。
コン……コン。
「………入りたまえ」
「………」
以前となんら変わらないやり取りに、滲みそうになる涙を必死に我慢しながら、澪は一度深呼吸をするとドアノブに手をかけた。
過去には戻れない。
過去は返ってこない。
なら、きちんと向き合って…終わりにしよう。
そんな決意を胸に抱えながら、澪はドアを押し開けた。
***