そんな時はどうぞ紅茶を
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「では、被告人・峰沢澪。証言台へ」
「?」
裁判長から唐突に告げられて、澪は思わず成歩堂を見る。
成歩堂は小さく笑って頷くと、右手を証言台へ向けて行くように促した。
「……はい」
恐る恐る返事をした澪は、言われた通りに証言台に立つ。法廷中の視線を、全身に感じながらも高い位置に座する裁判長を見上げた。
裁判長は澪に小さく頷くと、ふぅと息を吐く。
「――…成歩堂弁護士」
「はい」
「また…君の手により、我々が真実だと思っていた事が、見事に覆りましたね」
成歩堂が少し照れたように後ろ頭を掻く。その仕草は、先程までの息詰まるような真剣さからは掛け離れた…まるで、少年が得意げに胸を張るような姿にも見えた。
「…これより被告人・峰沢澪に判決を言い渡します」
瞬時に空気が張り詰める。澪は、自分に下される判決を分かっていながらも、心のどこかで「もしかしたら」と疑う自分がいるのを感じていた。
来るべきその瞬間を焦らすように、時が不自然に間延びするような錯覚に捕らわれる。
緊張で震えそうになる指先をぎゅっと握り込みながら、澪は裁判長の言葉を静かに待った。
裁判長が
口を
開く。
「峰沢澪に無罪を言い渡す!」
「!」
澪の芯を揺さぶる、それは高らかな宣言。
意識が隅々まで澄み渡り、クリアになる。
無罪…
無罪。
無罪!
私は―――…無罪!!
「!」
その瞬間、ワッ!と巻き起こる歓声。
同時に頭上からひらひらと色鮮やかな紙吹雪が舞った。
「峰沢さん!」
「峰沢君!おめでとう!!」
傍聴席から興奮した声が上がる。澪が思わず振り返ると、そこにはホテルのクルー達と、支配人・市庭が席から身を乗り出して手を振っていた。
「おめでとう!峰沢さん!良かったね!!」
「お疲れ!峰沢君!ちゃんとウチに戻ってくるんだよ!」
「…市庭さん……みんな……!」
景色が急にぼやける。瞳を潤す涙が壁となって、視界をゆらゆらと波打たせる。
「……とう」
言葉が、上手く紡げない。
ありがとう。
ありがとう。
みんな、本当にありがとう。
笑顔で必死に手を振るみんなに、澪も手を振る。目尻から涙が零れるのを止められなかったが、それでも澪は嬉しそうに手を振り続けた。
「…では、本日はこれにて閉廷!」
カァン!
裁判長が、木槌を響かせた。
未だ舞う紙吹雪の中、成歩堂は証言台で泣きながら歓声に応える澪を見つめていたが、ふと御剣へと視線を向けた。
御剣は、証言台の澪から視線を外し、どこか遠くを見つめて立ち尽くしていた。
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