そんな時はどうぞ紅茶を
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「――…スキコさん」
何とか静寂を取り戻した法廷に、成歩堂の呼びかけが落ちる。
「貴方は…事件なんて本当は目撃してないのでは――」
「…成歩堂」
成歩堂の言葉に、御剣の声が被さる。右手の人差し指の先を生え際へ押し当て、薄く目を伏せた。
「……彼女の目撃証言は、正しい」
「――…どういう事だ。御剣」
額に押し当てていた指先を左右に振って、御剣は成歩堂を睨む。
「…証言が正確なのだよ」
「!?」
「マスコミが発表していない、警察のみが持っている情報を彼女は知っていた。現場の室温を上げ、殺害後に服を着替えた等の情報は、マスコミには未発表なのだ。しかし、彼女はその知るはずのない情報を証言したのだよ」
「…だから言ってるでしょ!!アタシ、はっきり見たって!!」
御剣のフォローに気力を取り戻したのか、スキコは強気の笑みを浮かべて勝ち誇ったかのように笑った。
「アタシは嘘はついてない!この女が、アタシのダーリンを殺したんだから!!」
「………」
「ほら!何とか言ったらどうなのよ弁護士さん!?"僕の勘違いでしたごめんなさい"って、土下座して謝りなさいよっ!!」
「――…!そ、そうか……そういう事か!」
なじるスキコの言葉を黙って聞いていた成歩堂が、はっと我に返ると御剣を見た。
「御剣…お前の言う通りだ。彼女は確かに、犯行の瞬間を目撃した」
「………」
「でも、喫茶店からじゃない。彼女は、違う場所から犯行を目撃したんだ」
「……ならば、どこから目撃したというのだ?」
静かに問いかける御剣。成歩堂は現場の間取り図を映し出すスクリーンの一点を、力強く指さした。
「それは―――…ここだ!!」
成歩堂の指さす先は
まさしく現場である6畳部屋の部分だった。
「なっ…な――…成歩堂君!!」
裁判長が目を剥いて彼の指先を見つめる。
「君は……君は自分がドコを指さしたのか、分かっているんですか!?」
「もちろんです、裁判長。彼女の証言が揺るぎようのない事実なら、それは喫茶店からベランダの窓越しに見たのではない」
ダン!と成歩堂が手のひらで机を叩く。
「彼女は、現場で直接犯行を目撃したんだ!!」
澪は、ともすれば呆然としてしまいそうな意識を一生懸命動かして、成歩堂の言葉を考えた。
スキコが、犯行当時に犯行現場にいた。
もしそうなら……まさか、この人――!
「……成歩堂」
御剣は、軽く顎を引くとその先に軽く指先を掛けた。
「犯行の瞬間、証人が犯行現場にいた…そう言うつもりなら、それがどういう意味なのか…分かっているのだろうな?」
楽しそうな口ぶりだ。実際、御剣は口の端に滲む笑みを隠しきれない。
成歩堂は、真剣な表情でゆっくりと、1回だけ頷いた。
「もちろん。その意味は……この証人こそ、今回の事件の犯人だと言う事だ!!」
今日一番のどよめきが、法廷から沸く。
そんな騒がしい中でも、成歩堂の言葉は止まらない。
「僕は告発する!彼女、杉田スキコこそ、杉田重繁を殺害した真犯人だ!!!」
「…!」
自分を取り巻く喧騒が別次元のような錯覚に陥りながらも、澪は成歩堂の確信を持った発言をしっかりと聞いていた。
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