そんな時はどうぞ紅茶を
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「ち、ちょっと待つッス!!」
成歩堂と御剣の息詰まる攻防で、その存在をすっかり薄められていた糸鋸が、思わず声を荒らげた。
「仮に杉田がストーカーだったとしても、被告の犯罪は間違いないッス!」
「!?」
「密室ッス!あの現場は、被告が遺体を発見するまで、完全に閉ざされていたッス!それを突破出来たのは…あのコだけッス!!」
傍聴席が、微かにざわめく。
「…大家が保管するスペアキーは、厳重な管理の下、大家以外持ち出す事は出来ない。大家のアリバイは完璧で、今回の事件とは無関係」
腕を組んだ御剣が、静かに語ると徐に成歩堂を指さした。
「そして新たに出てきた3本目の鍵は、死んだ杉田が持っていた…となると、密室の現場を突破できたのは、マスターキーを持つ峰沢以外考えられない」
「………」
「さぁ、どう言い訳をする?成歩堂。まさかここに来て4本目があるとは言わせないぞ」
「………」
両手を机に置いたまま、成歩堂は御剣を睨みつける。ぴくりとも動かない彼を、澪は息を詰めて見つめていた。
「……現場は、密室なんかじゃなかった」
「………なんだと?」
呟いた成歩堂に、御剣の眉間のシワが深くなる。
「この鍵は…事件後、"杉田の本宅の庭"で僕が見つけた。杉田の体から見つけたんじゃない」
「………なんだと!?」
成歩堂の言葉を受けて、御剣が目に見えて狼狽する。震える唇を引き締めた彼は、成歩堂を睨んだ。
「まさか…その鍵は!」
「そうだ!事件の時に杉田が使ったのなら、彼自身が持っていないと辻褄が合わない!しかし現にこの鍵は僕の手元にある!」
ダン!成歩堂が机を叩いた。
「つまり!事件のあった日!このスペアは杉田以外の人物が使用したという事なんだ!」
「なっ…」
「なん…!」
なんだって!!?
雷を打たれたような衝撃と動揺が、法廷に走る。
「そうなると、密室という条件は崩れる!あの日!あの事件があった日!杉田と被告とは違う更なる第3者がこの件に関係していたという事実を持って、密室は成立しない!!」
澪は、もうまばたきするのも息をするのも忘れ、隣で朗々と言葉を語る成歩堂を見つめていた。
法廷が騒ぐ。どよめく。木槌が鳴る。「静粛に!」と声が何度も繰り返す。
まるで嵐のような騒然さの中で
御剣は1人、大きく息を吐き出した。
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