そんな時はどうぞ紅茶を

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糸鋸刑事の証言は、昨日御剣が澪を取り調べた際に告げた内容と一緒だった。

犯行現場でもあり、澪の自宅から300mのところに杉田の別宅がある。そこで澪の私物が大量に発見された。

それらは指紋やDNA鑑定で、確実に澪の物だと立証出来ている。

更に、澪を写した写真も発見された事から、杉田と澪は親密な関係にあったとされる事…

「…ん?」

それまで黙って聞いていた裁判長が、突然はっと我に返ると、手元の資料に目を通し始める。

「被告と被害者は親密な関係と言いましたが…書類には被害者は既婚者と書いてますぞ。これは…」

「え、っと…それは……」

糸鋸が言葉に詰まる。すかさず御剣が説明した。

「既婚者が、他の異性と親密な関係になる。これはいわゆる不適切な関係…つまり、不倫という事」

「な、なんと…不倫ですか…!!」

ざわざわざわざわ…

傍聴席がさざなみのようにどよめく。好奇や軽蔑といった、あまり気持ちの良くない視線を向けられて、澪はぐっと涙を堪えると俯いた。

「…峰沢さん」

「!」

成歩堂の声に、澪ははっと顔を上げる。この状況でも、彼は動じずいつもと変わらない笑みを向けた。

大丈夫。

…何も言わない成歩堂だが、そう言われたような気がして、澪はぐっと唇を引き結ぶと、無理矢理笑みを形作ってみせた。成歩堂は満足そうに頷く。

御剣は、こちらを一切見ずに話を続ける。

「証拠が彼らの不適切な関係を物語っている。その関係に疲れた被告が犯行に及んだとしても、何の疑問もない」

「動機にも筋が通るという事ですね。御剣検事」

裁判官の問いかけに、御剣は口の端を意地悪く上げると両手を広げて肯定の意を示した。

「…では、弁護士。尋問を」

「はい」

成歩堂の雰囲気が、途端に変わる。

今までは動揺する澪の為に、意識して穏やかな笑顔を見せていた成歩堂だったが、その表情がみるみる厳しさを研ぎ澄ませていく。

本気で、無罪を勝ち取る為に。



***



「…イトノコ刑事」

「う、うッス」

「峰沢さんが被害者と不適切な関係にあったと結論づけた根拠は、なんですか?」

手始めに…というような軽い口調で、成歩堂は糸鋸に問いかけた。

糸鋸は「そんな事ッスか?」と強気に胸を反らす。

「そりゃもちろん。杉田の別宅から発見された被告の私物ッス!指紋やDNAできっちり峰沢本人の物だと証明されたッス!それと写真ッス!このコが1人だけ写った写真が、何十枚も出てきたッス!」

糸鋸は、更に声を張り上げた。

「写真は1枚1枚丁寧にアルバムに大事に保管されてたッス!関係性はどうであれ、これは恋人の写真に違いないッス!!」

その言葉に、成歩堂は手にしていたファイルから何枚か写真を取り出した。

「写真というのは…これですか?」

成歩堂が提出した写真が、法廷のスクリーンに映し出される。写っているのは確かに澪である。

日常生活を送る何気ない自分を切り取った写真達。それを見て、澪の顔が気味悪さに青くなる。一体……いつ撮られたんだろう。

スクリーンを見て、糸鋸は「そうそう、これッス」と自信満々に頷いた。

成歩堂の瞳に、鋭さが増す。

「この写真から、被害者と被告は不倫関係にあったと判断したんですか?」

「もちろんッス。間違いない証拠ッス!」

糸鋸がフフンと得意げに笑いながら頷いた瞬間だった。

ふ。

…と、成歩堂の左腕が持ち上がる。人差し指だけを突き出す形にして、その先を証言台に立つ糸鋸に合わせた。

凛と研ぎ澄まされた瞳で、まるで銃の照準を合わせるようにまっすぐと見める。

成歩堂の唇が、ひゅっと息を吸い込んだ。



「異議あり!!!」



裁判官が持つ木槌のように、

彼の声は、法廷の空気を打ち響かせた。



***
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