そんな時はどうぞ紅茶を

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「………」

御剣を追って中に入ったはいいが、自分の場違い感をひしひしと感じつつも、澪は店内をぽかんと見回した。




静寂をBGMに、眩しさに目が眩みそうになるほど明るい店内。人は誰もいないのか、その気配すら感じられない。

そんな不思議な空間だが、ところどころに存在する服だけが、ここはブティックなのだと意識させる。御剣はいつもこういう場所で買い物をするのだろうか。

「さぁ。好きなのを選びたまえ」

ぼうっと立ち尽くしている澪に、先を歩いていた御剣が立ち止まってそう声を掛けた。突然のことだったので、澪は「え?」と首を傾げる。

「私が見立てを申し出てもいいのだが…女性の趣味はよく分からないし、私のセンスは評判があまり良くない」

「……え?」

「君の服だ。好きなものを選びたまえ」

「………!」

やっと状況を理解できた澪は、目を思いっきり見開くと首をぶんぶんと勢い良く横に振った。

「そ、そ…そんな結構です!!というか無理です!こんな高いモノ、好きにと言われても…!」

さっきちらりと見た値札は、澪が普段慣れ親しんでいるお値段より、ゼロが1つ2つほど多い。

そんな物を「さぁ好きにどうぞ」と言われても、「じゃあ遠慮なく」とは簡単に言えない根っからの貧乏性・峰沢澪である。

御剣は少し呆れたように両腕を組んで澪を見た。

「遠慮は却下すると、さっきから言っている。この店では不満か?」

「とんでもありません!違います!不相応すぎて困るんです!」

「それを人は遠慮というのだ」

「…そ。それにですね。自分で言うのも何ですが…私にはこんな上品で素敵な服は、絶対似合わないです!」

「ム。そうだろうか?」

そうそう!澪は無言でこくこくと力一杯首を縦に振ってみせる。御剣は「ふむ」と1度頷くと、店の奥の方へ視線を走らせた。

「そこの君!すまないが、彼女を見立ててやってもらえないだろうか?」



人の話を聞けー!



澪は全力で突っ込みたくなるのを、同じように全力で我慢すると「御剣様!」と声を上げた。

瞬間、御剣の眉間にシワが寄る。

「…今の君は、仕事でここにいるのか?それともプライベートなのか?どちらだ?」

「………」

タイムカードを押した云々で判断するならもちろん…

「ぷ、ぷらいべーと…です」

「ならば、今から"御剣様"だとかいう堅苦しい言葉遣いは謹んでもらいたい。仕事をしている気分になる」

「………」

そこに、御剣に指名されたらしい店員が、ぱたぱたとこちらへやってきた。

「お待たせいたしました。こちらのレディを?」

生まれてこの方23年。"レディ"なんていう単語を当てはめられた事が未だかつてない澪は、店員をまじまじと見つめた。

「うム。頼む」

「かしこまりました。さ、こちらへどうぞ」

恭しく店員に促されて、澪は2階へと上がっていった。

思わず不安そうな表情を御剣に向ける。彼は少しだけ微笑むと、軽く片手を上げて澪を見送った。



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