そんな時はどうぞ紅茶を

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それからというもの、澪にとって今日は厄日と評する以外何モノでもない1日となった。

皿を割る、グラスを割る、転ぶ、ぶつかる、その拍子に持っていた料理を落とす、タチの悪い客に絡まれる、尻を撫でられるなどなど…

「………」

「…大丈夫、峰沢さん?」

大丈夫ではない。ないが机に突っ伏しつつも「うん」と気丈に頷く澪である。

「…シェフに言って、きりたんぽ、作ってもらおう?ね?」

「………いい。仕事もう終わりだから。もう何もないはず」

「…そういえば、今日は御剣タイム、なかったね」

「仕事が立て込むから、もしかしたら頼めないかもって…昨日の御剣タイムの時に言われたから」

思えばこの異変が、全ての元凶のようにすら思える。この厄日の中、御剣タイムに逃げ出せないなんて、最大の不幸ではないか?

…しかし、もしかしたら"運転中に事故"という展開もあったかもしれない。そう思うと"不幸中の幸い"ではないだろうか?いや、きっとそうだそうに違いない。絶対。意地でも。

暗い瞳でぶつぶつと呟く澪を遠巻きに心配しつつ、本日の厄日を指摘したウェイトレスはそっと優しく語りかけた。

「……上がる?終わりなんでしょ?」

「うん、帰る。まっすぐ帰る。何がなんでも帰る」

「…お疲れ様でした」

どんよりとタイムカードを切る澪を、オロオロと見送るウェイトレスであった。




しかし。

厄日がそう簡単に幕を降ろすはずがなかった。




「………」



ザアアアアアアアアアアアア…



澪がホテルの従業員専用出入り口から出ると、外はバケツをひっくり返したような大雨が降っていた。魂の抜けた表情で、空を仰ぐ澪。もう文句すら思いつかない。

傘はない。が、その出入り口付近には大量の傘が一斗缶に突っ込まれていた。何ヶ月も音沙汰のない"お客様の忘れ物"からの提供である。

傘を持っていない澪は、その一斗缶から1本の傘を引き抜いて広げた。

ばたばたばたばた…雨粒が傘の上で跳ねる音がうるさい。果たしてこの凄まじい雨の中を、傘をさして無事に帰れるのだろうか。

「………」

しかし、いつまでもここで突っ立っている訳にはいかない。

澪は意を決して、雨の中へ1歩足を踏み出した。



***
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