そんな時はどうぞ紅茶を

□06
2ページ/3ページ


「………」

"待て"と言われても、我慢の限界がある。

とりあえず10分、澪はワゴンの傍で直立不動で待ってみたが、御剣はその長い足をソファの肘掛に乗せて、こんこんと眠り続けている。

「……はぁ」

投げやりな溜息を吐き出して、澪はいよいよ行動を開始した。

…とはいっても、部屋の中を点検――もとい、散策するだけなのだが。

「これって…やっぱりお仕事のファイル、だよね…?」

この部屋で一番面積を取っていて一番目立つ本棚を前に、澪は呟く。床から天井ぎりぎりまでいっぱいに伸びた本棚には、ファイルがぎちぎちに詰めてある。

仕事のファイルとなると…やはり事件の、という事なのだろう。

背表紙には「GE023」とか「HF302」など、アルファベットと数字が組み合わされた文字が並んでいて、見ただけではどんな内容なのか分からない。

でも、御剣が扱っているのならば、これらは全て事件のファイルなのだろう。

「………」

事件。やはり人が人を…なんだろうか。

1人暮らしとはいえ、平々凡々な生活を送っている澪にとって、事件はTVの向こう側から伝えられるもので、いまいち実感がない。せいぜい運転中にひやりとする事が、ごくたまにある程度だ。

でも、現実は…こんなにも沢山の事件で溢れている。彼以外にも検事はいるのだから、その数は想像するだけで目がくらむ。そのどれにも関わらずここまで生きてきた事は、ある意味奇跡と言うのかもしれない。

このファイル1つ1つに、人の悪意や怨念がこもっていそうで、澪は思わず寒気がした。

「………」

御剣を見る。彼はまだ寝ている。

彼はいままでどれだけの事件を扱ってきたのだろう。

人が人を。誰かが誰かを。

自分にとっての非日常の中に身を置く彼は、いつだって真っ直ぐで気高い。



凄いな。



澪は本心からそう思った。



***
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ