そんな時はどうぞ紅茶を
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「………」
"待て"と言われても、我慢の限界がある。
とりあえず10分、澪はワゴンの傍で直立不動で待ってみたが、御剣はその長い足をソファの肘掛に乗せて、こんこんと眠り続けている。
「……はぁ」
投げやりな溜息を吐き出して、澪はいよいよ行動を開始した。
…とはいっても、部屋の中を点検――もとい、散策するだけなのだが。
「これって…やっぱりお仕事のファイル、だよね…?」
この部屋で一番面積を取っていて一番目立つ本棚を前に、澪は呟く。床から天井ぎりぎりまでいっぱいに伸びた本棚には、ファイルがぎちぎちに詰めてある。
仕事のファイルとなると…やはり事件の、という事なのだろう。
背表紙には「GE023」とか「HF302」など、アルファベットと数字が組み合わされた文字が並んでいて、見ただけではどんな内容なのか分からない。
でも、御剣が扱っているのならば、これらは全て事件のファイルなのだろう。
「………」
事件。やはり人が人を…なんだろうか。
1人暮らしとはいえ、平々凡々な生活を送っている澪にとって、事件はTVの向こう側から伝えられるもので、いまいち実感がない。せいぜい運転中にひやりとする事が、ごくたまにある程度だ。
でも、現実は…こんなにも沢山の事件で溢れている。彼以外にも検事はいるのだから、その数は想像するだけで目がくらむ。そのどれにも関わらずここまで生きてきた事は、ある意味奇跡と言うのかもしれない。
このファイル1つ1つに、人の悪意や怨念がこもっていそうで、澪は思わず寒気がした。
「………」
御剣を見る。彼はまだ寝ている。
彼はいままでどれだけの事件を扱ってきたのだろう。
人が人を。誰かが誰かを。
自分にとっての非日常の中に身を置く彼は、いつだって真っ直ぐで気高い。
凄いな。
澪は本心からそう思った。
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