そんな時はどうぞ紅茶を

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成歩堂の質問に、御剣は頷いたり肩を竦めてみせたりして答える。しかし2人の瞳は、仕事をする男の瞳だ。そんな様子を時折確認しながら、澪は紅茶を出すタイミングを伺う。

「…これ以上、君に話せる情報はない。分かってくれ」

「まぁ、仕方ないかな」

「…それにしても、単なる事件じゃないのだな。君が弁護に付くと言う事は…そういう事か?」

「いや。まだそこまでは…でも、何か"ある"。そんな感じがするんだ」

「…君の勘は、時々馬鹿に出来ないからな」

口元に苦笑を浮かべて、御剣が呟く。

思えば、被告人の有罪を勝ち取るのが検事なら、その逆の立場なのが弁護士ではないか?ならば、本来ならこの2人は敵同士ではないだろうか。

しかし、現在澪の目の前にいる検事と弁護士からは、そんな雰囲気は見られない。仲良しこよしというのとは違う、確かな絆みたいなものを感じる。

やっぱり、御剣怜侍は不思議な男である。澪は改めてそう思った。

「なら、僕はこれで退散だな。ティータイムの邪魔して悪かったね、御剣」

「まったくだ」

用が済んだらしい成歩堂は、カバンを小脇に抱えて戸口へと足を向ける。そして澪の近くを通り掛った時、不意に立ち止まった。

「あ、峰沢さん…だったよね?この前は大丈夫だった?」

「…?」

「御剣だよ。僕が帰った後にまた怒られたんじゃないかなって」

「成歩堂」

瞬間、御剣が眉間にシワを寄せて呻く。澪は慌てて首を横に振った。

「い、いえ。大丈夫です。ご心配なさるような事は一切…そもそも自分勝手な事をしたせいですし」

成歩堂は徐に腕を組むと「多分、それ違うと思うよ」と呟く。そして御剣をちらっと見てから澪の耳にそっと口元を寄せて、こそこそと小声で話し出した。



「御剣はね。誰よりも一番最初に、君の紅茶が飲みたかっただけだったと思うよ」



「………まさか」

離れていく成歩堂の顔をまじまじと見つめながら、澪は思わず呟いた。

成歩堂は、小さく笑う。

「あの時のアイツ、急いで帰ってきたみたいだったからさ」

「………」

「まぁ、単なる勘でしかないけど、僕の勘って馬鹿には出来ないらしいしね」

「………」

「何を話しているのだ君達は…」

刺々しい低音が聞こえたので、はっとそちらを見れば、手元の書類をぎちっと握り締めてこちらを睨みつけている御剣の姿があった。

「も、申し訳ございません…ただいまお紅茶の用意を」

「じゃ。僕も今度こそ、お邪魔しました〜」

慌ただしく行動を再開した2人を、御剣は厳しく見据えていた。



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