そんな時はどうぞ紅茶を
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コンコン。
「入りたまえ」
最近、「バンドーホテルです」の挨拶は省略されるようになった。澪がノックをすると、すぐさま入室を許可する御剣の声が聞こえる。
「失礼します」
ドアを押し開けて、澪はワゴンと共に入る。部屋には御剣の他に、客の姿が見えた。
「あ」
客の姿を確認した瞬間、澪は声を上げて足を止める。客の方も、澪を見て「あ」と一言呟いた。
「成歩堂様…でしたね。ご歓談中でしたか。失礼致しました」
「いや、いいんだ。この前はありがとう」
成歩堂が言う"この前"とは、御剣不在中にやってきた彼に紅茶を勧めた前回の話の事である。
成歩堂……確か、弁護士だったか。奇抜な名前と、同じように奇抜な髪型はあまりにも印象的で、1度見れば忘れられない。
それを言えば御剣も、現代社会ではお目に掛けない出で立ちで、1度見れば忘れられない点では、2人は共通している。
「…そういう訳だ、成歩堂。ティータイムの時間なので席を外してはくれないか?」
「ちょ…話を逸らすなよ。解剖記録、貰う権利あるんだぞ」
「……ふん」
渋々といった感じで、御剣は机の引き出しを開けると、A4サイズの茶封筒を取り出して机の上に投げた。
成歩堂は特に気にした様子もなく、茶封筒を手に取ると早速中を確認した。
「…これ、最新のヤツだよな?」
「疑り深いな。いつまでも昔の話を根に持つのは頂けない」
「んじゃ。ついでに2、3聞きたい事があるんだけど」
「………」
御剣は、明らかに不機嫌そうに顔を顰める。しかし、成歩堂の意思は硬そうだ。
長くなるな…澪はそう思った。
「…お取り込み中でしたら、私は下がりますが」
「いや」
すぐさま御剣の声が飛ぶ。
「5分も掛からん。準備を始めてくれたまえ」
「…かしこまりました」
戸口で立っていたままだった澪は、一礼してから2人の元へ近づく。
彼らの邪魔にならず、しかしいつもより遠い位置でワゴンを止めると、いつものように紅茶を用意し始めた。
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