そんな時はどうぞ紅茶を

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それは、出会ってから8日ほど経った頃だった。



「…君はイギリスへ行った事はあるか?」

御剣の突然すぎる質問に、澪はティーポットを持ったまま、一瞬だけぽかんとしてしまった。

「…は?」

「──イギリスへは行った事があるのかと聞いている」

「……いいえ」

不思議な事を聞いてくる。澪はそう思いながらカップに紅茶を注いだ。本日の紅茶はギャルという花の香りが特徴の茶葉をストレートで淹れたものだ。

自分の先輩でもある、御剣曰く「いつものボーイ」の代理として検事局へ紅茶を届ける事、今日で8日目。その間、美味い不味いはおろか、ありがとうのやりとりもなく、事務的な会話の繰り返しだった。

それが突然この展開。面食らうには十分すぎる。紅茶のカップを、澪は御剣へ差し出した。

「国内は何ヶ所か出掛けた事はありますが、海外はまだどこにも」

「…うム、そうか」

「……あの。」

終わりそうな会話を、澪は無意識の内に繋いでいた。

「それが、何か?」

「………」

何かも何もないのだろうか。御剣は、静かに紅茶を飲んで視線を伏せる。澪はじっと息を潜めて彼の台詞を待った。

「……君の紅茶は──」

「…?」

ようやく、御剣の口から呟きが落ちた。

「なかなかアレだ。だからイギリスで学んだのだろうかと…」

「……」

「そう思っただけだ」と早口で言い終えた御剣は、再びカップに口を付けた。



"君の紅茶はなかなかアレだ"



アレとは何か。褒められたのか貶されたのかよく分からなかった澪だが、「恐れ入ります」ととりあえず小さく頭を下げた。

「実家の近所に、イギリス人の老夫婦が住んでまして、家族ぐるみで懇意にさせていただいてました。紅茶の知識は、彼らから…」

「本場仕込み、という訳か」

澪の説明に、御剣はその切れ長の瞳を細めて微かに笑った。

これも…初めて見た。澪は軽い驚きと共に御剣を見る。彼も人間なのだから笑う事くらいあるのは分かっていたが、眉間に刻まれた神経質なシワが常だったので、その些細な変化がひどく新鮮に思えた。



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