そんな時はどうぞ紅茶を

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ホテルバンドーと御剣がいる検事局との距離は、歩いて大体10分前後。しかしワゴンを押して歩いていこうと思える距離ではない。

かといって公共の交通機関を利用する訳にはいかない。メイドとは言わないがホテルを連想させる制服で、しかもワゴンと一緒に利用するなんて悪目立ちすぎる。

なので、地下にある従業員用駐車場の社用車で検事局へ行く。ワンボックスタイプで、大きな荷物を運ぶ際に使われる車だ。

澪は車の後部扉を上へ押し上げると、ラゲッジスペースにスロープを渡した。

ガラガラ…

スロープを伝ってワゴンを押し込む。いつもの作業をしながら澪は、先程の会話をふと思い出した。

「王子様、とはまた違うかな…」

王子様と言えば世の女の子が一度は夢に見る異性の理想像である。王子様は普通、ハンサムで優しいものだ。

とするなら、御剣はその定義から若干外れる。ハンサムだとは思うが、優しいかと聞かれるとそれは…

「…違うなぁ」

彼は常に眉間にシワを寄せて書類を睨んでいる。紅茶を差し出しても無言で受け取るのが常だ。

美味いも不味いも、ありがとうすらも言わない。果たしてそういう人は"優しい"と言えるのか。


「失礼します」「お紅茶です」「では、これで失礼します」…これだけの言葉で彼との会話は事足りるのだから、やはり御剣は世の女性が言う王子様とは違うのかもしれない。

澪は後部扉を閉めると、運転席に回って乗り込んだ。運転手はもちろん自分である。

でも、さっきウェイターが口にした"白馬に白タイツにかぼちゃパンツ"は、御剣に似合いそうだと思ったのは本気なのだが。



「…不思議な人、かな?」



それが、「どんな人?」に対する、澪の率直な感想であった。



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