そんな時はどうぞ紅茶を
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御剣がバンドーホテルに紅茶を注文する時間は不規則なのだが、大体15時から18時の間に集中していた。
1日2回、午前と午後とで注文してくる事もあったが、それは実に稀な事で大体は1日1回。
毎日欠かさず…という訳でもなく、注文の来ない日ももちろんある。それは澪もかの先輩ボーイを見て知っている。
彼が支店へ一時派遣され、その役割を任されるようになって5日。今のところ、御剣からの注文は毎日来ていた。
ちなみにバンドーホテルの従業員内で、御剣から紅茶の注文が来る事を
「峰沢さーん。御剣タイム来たよー」
「はーい」
…と、称されているのを当の本人は知らない(多分一生知らされない)大体、ホテルは外部からの配達注文などは受け付けないものである。
「でも、何で御剣タイムはアリなんだろう?」
ケトルにたっぷりのお湯が沸くのを待っている澪の隣で、同僚のウェイトレスが何となく疑問を口にした。
「何か前にさ、このホテルの近くで事件があって、それが縁らしいってのを聞いたけどなオレ」
同じく同僚の、傍にいたウェイターが彼女の質問に答える。「えー!?」と色めき立つウェイトレスの傍で、澪も静かに「そうなんだ」と心の中で呟いた。
「この御剣タイムの人って、検事さんだよね?ねー、どんな人なの?」
話題を振られて、澪は「え?」と顔を向ける。ウェイトレスが好奇心満タンの瞳を輝かせていた。
そんな彼女をしばし見ながら、澪は「うーん」と首を傾げる。どんな人、か…?
「イケメンなんでしょ?芸能人に例えるとどんな人?」
「ゲーノージンってあんまりよく知らない…」
「えええー!」と息巻くウェイトレス。しかし次の瞬間、澪は「あ」と一声漏らした。
「……王子様、かな?例えるなら」
澪から突然、ファンタジーの単語が出てきたので、ウェイトレスはウェイターと共にぽかんと口を開けた。
「王子…様?」
「うん。服装がそんな感じ」
「服装が?」
「ネクタイじゃなくて、ヒラヒラした白いスカーフみたいなの付けてる。ヨーロッパ貴族っぽいの」
それを聞いた同僚の2人は、思わずお互いに顔を見合わせた。ダメだ、全然イメージが湧かない…そういった雰囲気である。
「あの…王子様っていったら、白馬に白タイツにかぼちゃパンツでしょ?あんなの?」
ウェイターが再度尋ねる。澪はシューと蒸気を吹き出したケトルを火から下ろして、魔法瓶にお湯を移し替えた。
「あ。似合うかもそれ」
「ふ、ふーん」
澪の答えに、ますます謎が深まるばかりの同僚らである。澪はワゴンにいつもの用意を済ませると「じゃ、行ってきます」とその場を後にした。
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