そんな時はどうぞ紅茶を

□02
1ページ/2ページ




御剣がバンドーホテルに紅茶を注文する時間は不規則なのだが、大体15時から18時の間に集中していた。



1日2回、午前と午後とで注文してくる事もあったが、それは実に稀な事で大体は1日1回。

毎日欠かさず…という訳でもなく、注文の来ない日ももちろんある。それは澪もかの先輩ボーイを見て知っている。

彼が支店へ一時派遣され、その役割を任されるようになって5日。今のところ、御剣からの注文は毎日来ていた。

ちなみにバンドーホテルの従業員内で、御剣から紅茶の注文が来る事を

「峰沢さーん。御剣タイム来たよー」

「はーい」

…と、称されているのを当の本人は知らない(多分一生知らされない)大体、ホテルは外部からの配達注文などは受け付けないものである。

「でも、何で御剣タイムはアリなんだろう?」

ケトルにたっぷりのお湯が沸くのを待っている澪の隣で、同僚のウェイトレスが何となく疑問を口にした。

「何か前にさ、このホテルの近くで事件があって、それが縁らしいってのを聞いたけどなオレ」

同じく同僚の、傍にいたウェイターが彼女の質問に答える。「えー!?」と色めき立つウェイトレスの傍で、澪も静かに「そうなんだ」と心の中で呟いた。

「この御剣タイムの人って、検事さんだよね?ねー、どんな人なの?」

話題を振られて、澪は「え?」と顔を向ける。ウェイトレスが好奇心満タンの瞳を輝かせていた。

そんな彼女をしばし見ながら、澪は「うーん」と首を傾げる。どんな人、か…?

「イケメンなんでしょ?芸能人に例えるとどんな人?」

「ゲーノージンってあんまりよく知らない…」

「えええー!」と息巻くウェイトレス。しかし次の瞬間、澪は「あ」と一声漏らした。

「……王子様、かな?例えるなら」

澪から突然、ファンタジーの単語が出てきたので、ウェイトレスはウェイターと共にぽかんと口を開けた。

「王子…様?」

「うん。服装がそんな感じ」

「服装が?」

「ネクタイじゃなくて、ヒラヒラした白いスカーフみたいなの付けてる。ヨーロッパ貴族っぽいの」

それを聞いた同僚の2人は、思わずお互いに顔を見合わせた。ダメだ、全然イメージが湧かない…そういった雰囲気である。

「あの…王子様っていったら、白馬に白タイツにかぼちゃパンツでしょ?あんなの?」

ウェイターが再度尋ねる。澪はシューと蒸気を吹き出したケトルを火から下ろして、魔法瓶にお湯を移し替えた。

「あ。似合うかもそれ」

「ふ、ふーん」

澪の答えに、ますます謎が深まるばかりの同僚らである。澪はワゴンにいつもの用意を済ませると「じゃ、行ってきます」とその場を後にした。



***
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ