D-Novel:短編

□宣告
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「――…」

ドアを薄く開けた先に見えた、外にいる人物を見た瞬間、傘を持つ右手に力が篭った。し、思わず息を飲んだ。だってあんまりにもその――…予想外というか、光景がぶっとびすぎて。

その時の私は、きっと目をまん丸に見開いて相手を凝視していただろう。不躾にじろじろと、頭のてっぺんから爪先までまじまじと見ていた。

相手は、男だった。体格といい背丈といい、間違いなく男だ。でもその……なんていうか。彼の格好が間違いなく浮世離れしているから、面食らってしまった。こういってはなんだけど、その格好は変質者に分類されるだろうし、警察が見かけたら職務質問される事間違いなしだ。

…別に全裸で突っ立ってるといった、そういう方向の格好ではない。いや、むしろそっちのほうが分かりやすくて私も遠慮なくドアを閉められたし、傘でメッタ打ちにも出来ただろうに。

彼のその問題の格好…それは、全身黒づくめだという事。それも、どう見たって鎧だ。詳しくないけど、映画とかで見た事ある。黒光りするそれは、騎士が身につけるのと同じ雰囲気の鎧。むしろ甲冑っていった方がしっくりする。

「……」

部屋の奥からまた、ゲラゲラという芸人の笑い声が遠くから聞こえてきた。なんというか、傍目から見るとなんともシュールすぎる。TV越しのそれを呆然と耳にしながら、私はずずいっと視線を上げて目の前に静かに立つ男の顔を見る。

そして私はもう一度息を飲む。無言のまま突っ立っている男の存在が、凄まじい強烈さで私のあらゆる感覚を奪っていった。

格好こそ奇天烈すぎてそこにばかり目が行っていたが――…男は綺麗な顔立ちをしていた。イケメンなんていう薄っぺらい言葉で表現するのもバカバカしいと思うくらい、綺麗な顔をした男だった。

唇、鼻、眉、瞼…あらゆるパーツが綺麗すぎて、こんな人が日本に存在している事に感動すら覚える。もしかしたら日本人じゃないかもしれないけど、それでもこの人は綺麗な人だ。閉じたままの目も、きっと綺麗なんだろう。

黒光りの甲冑が、彼の肌の白さを一層際立たせていて、そんな黒と白で出来た彼をまじまじと見ていると、音もなく彼の右手が持ち上がった。そして人差し指だけを私に向かって突き出すようにすると、男は目を閉じたまま呟いた。

「1年後…」

色味のない唇から零れる男の声は、私の耳からあのTVから届く煩わしい笑い声も何もかもをかき消す。





「1年後、君はこの世から消える」





…そんな事を告げられた時、私の脳みそにあったのは



あぁ、やっぱりカッコイイ人の声はカッコイイんだなぁ



――なんていう、暢気すぎるズレた感想だった。



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