D-Novel:短編

□宣告
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あれは、冬の気配を感じ始めた10月末の事だった。



***



コンコン。



「?」

唐突に鳴った打音に、はっと顔を上げる。あんまりにも不意打ちすぎる音だったから、そのまま場所を探そうときょろきょろと辺りを見回す。

「――…」

静まり返る部屋。打音の思い当たる箇所が判らなくて、「気のせいか」と私はだらだらと見ていた深夜番組を映すTVへもう一度視線を向けた。



コンコン。



「………」

気のせい、じゃない。やっぱり聞こえる。これってノック?ドアをノックしてるの?そう思って玄関を見る。1人暮らしの狭いワンルームだから、今いる部屋から左へ視線を向けるとそのまままっすぐ玄関が見える。

そうやってそこに注目してると…3度目の「コンコン」という硬質の打音が響いた。間違いない。私はTV画面の向こうでゲラゲラと締まりなく笑う、顔も芸名もあやふやな芸人達の馬鹿騒ぎをそのままに、ゆっくりと重たく腰を上げた。

歩数にして数歩しかない短い廊下――…途中で小さすぎるキッチンと、ユニットバスへ通じるドアがある――…を渡り、玄関へ立った。あぁ、ホント、賃貸を値段だけで選ぶんじゃないとつくづく思う。この部屋はドアスコープすらついてないんだから、こういう時不便だ。このドア上部についている、小さな小さなすりガラスがドアスコープなのだろうけど。

心の中でそんな風に愚痴っていると、また「コンコン」とドアが鳴く。私はもうその間近にいるわけで、4度目のそのノックははっきりと聞こえた。すりガラスに注目してみるが、そこにはうっすらと影らしいのが見えているだけで、その正体まではよくは分からない。


「………」

こんな…古い言葉だけど、丑三つ時に差し掛かりそうな深夜に、何の用事で私の部屋を訪ねにやってきたんだろうか。非力な女性の1人暮らしだから、さすがにちょっと――…と、ためらっている私に耳に、つけっぱなしのTVからまた訳の分からない芸人らによるゲラゲラとしたバカ騒ぎが聞こえてきた。自意識過剰だとバカにされたタイミングに思えて、TV相手だというのに思わずムッとしてしまう。

「…どなたですか?」

鍵は開けず、ドアの向こうへ小さく小さく呼びかけてみる。でもそれに対する返事なのか、またドアがノックされた。

「――…」

いっそ警察を呼ぼうか?でもノックだけで何かされた訳でもないのに、それは大袈裟だろうか?もしかしたら酔っ払いが部屋を間違ってノックしてるだけかもしれない。

私は玄関の靴箱、と呼ぶにはお粗末な棚に掛けてある傘を右手に持つと、左手でそっとドアの鍵を開けた。ちょびっと開けて、万が一何かされたらすぐ閉めよう。閉め損ねたら、この傘でめちゃくちゃに叩いて突っつき回してやろう。あーもう、発想が暴力的すぎて乙女の考える事じゃないよね。

脳裏で万が一のシュミレーションを幾度となく繰り返し思い描きながら、私はほんの少しだけドアを開けた。



***
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