D-Novel:短編

□天啓
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そう。

これこそが、天が示す私の歩むべき道。



***



「ええと…こっちから、で、大丈夫のはず――…」

「センセー。大丈夫のはずってホントに大丈夫なんですかー?」

先生と呼ばれた成人男性を先頭に、学生服を着た若い男が数人、列を成して門を抜けた。生徒を引き連れて歩く男は、不安げに辺りをきょろきょろと伺っている。

「いやー。先生も初めて来たからね〜裁判所って」

恐る恐るの様子で先を歩く男…どうやら教師らしい…が、言い訳めいた言葉を呟く。彼のそんな言葉に、生徒らは思わず落胆の溜息と共に口々に心情を吐露しだした。

「ノリと勢いだけで見学に来る場所じゃないと思いますけど…」

「それにボク達、高校生で未成年なのに、本当に入っちゃって良かったんですか?裁判所」

「あぁー…え、えっと〜」

「……裁判傍聴の年齢制限について、特に規定はない」

答えに詰まった教師を見かねたのか、列の最後尾にいた生徒が静かに口を開き、その言葉に反応した一同が振り返った。一斉に注目を浴びる形になった男子生徒だったが、注がれる視線を泰然と受け流し、話を続ける。

「場を騒がしくしなければ、小学生でも傍聴は可能だ。実際、クラブ活動等で未成年が傍聴に来ている例もある」

淡々とした男子生徒の説明に、一同は「へー」と感嘆の呟きを漏らした。

「裁判所って、子供も来ていいんだな。もっと閉鎖的かと思ってた」

「っていうか、詳しいな。御剣」

「あー、そういえば御剣クンのお父さんは、弁護士だったね〜」

教師がそう付け加えると、御剣と呼ばれた男子生徒は不快そうに顔を顰める。あからさまな表情の変化に教師は戸惑った。

「え、えーっと…それじゃあ、早速裁判所に入ってみようか!」

その雰囲気を濁すように、教師はしどろもどろで裁判所へと向かっていく。生徒らも御剣の変化を気にしながらも、黙ってその後をついて行った。

「………」

御剣は1人、その場に立ち止まり裁判所の屋上あたりを見上げる。赤レンガの建物が、秋晴れの青空を区切るようにくっきりとそびえ立つ、そんな様を睨みつけるように。



御剣怜侍 17歳。

ここ地方裁判所へ来るのは、実に8年ぶりの事だった。

8年前の…"あの事件"以来。 







御剣が通う高校では週に1回、5時限目と6時限目の2時間に渡って行われる選択授業がある。あらゆる種類の科目を、学期毎に生徒自身の好みで選択出来るのだ。選択制ゆえ、授業の(もしくは担当教諭の)人気によって参加人数に偏りが出る訳だが、御剣が選択した科目はとりわけ人数が少なかった。

そんなある日、御剣が選択した科目の担当教師が、「今日は授業の一環として裁判の傍聴に行こう」と言い出した。少人数というフットワークの軽さが出来る事とはいえ、教師の唐突な提案に生徒達は面食らいながらも裁判所へやって来たのだった。

生徒のほとんどは"裁判"という、どこか非日常的な場面への畏怖や好奇心を抱いている中、御剣は終始不機嫌だった。本音を言えば、ここへは二度と来たくなかったし、そして二度と来る事はないと思っていた。

"あの日"から8年…当時小学生だった御剣は、高校生になった。しかし、色褪せない悪夢は毎夜繰り返し彼を苛む。そして8年ぶりに訪れた裁判所も、あの日から何ら変わらない姿でそこにある――…成長した自分が、"あの日"へタイムスリップしたかのような…それとも自分だけが取り残されたかのような、そんな複雑な思いが彼の胸中に渦巻く。

「………」

「ぉおーい、御剣ぃー。迷子になるぞぉー」

遠くから聞こえてくる同級生の声。御剣は返事もせず、見上げていた裁判所から視線を剥がすと、足早に建物内へと入っていった。



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